このページの要点
- 登録の費用と催事ごとの出店料を分け、基本契約と個別覚書の優先関係と、覚書がないまま出店したときの扱いを決める。
- 売上が主催者から支援会社を通って届くときは、控除の率が「残額」と「総額」のどちらに掛かるか、換算の基準日とレート、精算書の項目と異議の期間を書く。
- 会場の管理者の判断による中止は、出店料の返還と実費の精算に分け、免責は営業上の損失に絞り、故意・重過失の例外を置く。
- 支払の遅れ・相殺・直接取引の禁止・通知の到達・個人情報は、範囲と手順を限定して書き、個人事業主の出店者にはフリーランス法の適用も確かめる。
結論:出店支援の契約は「基本契約+個別覚書」の二層にし、売上の精算の道筋と、会場側の判断による中止の負担を先に決める
催事、マルシェ、物販会、飲食の販売会などに出店したい事業者を集め、主催者との間に入って、出店の申込みの手続、現地への入場や搬入の調整、当日の連絡を請け負う会社があります。以下では、この会社を「支援会社」と呼び、支援会社と出店者のあいだの契約を扱います。登場するのは三者です。主催者は催しを開き、支援会社は主催者と出店者のあいだをつなぎ、出店者は自分の商品やサービスを売ります。出店者が主催者に直接出展料を払い、主催者の出展規約に従う形は、展示会・マルシェ・イベントの出展規約(主催者側)で主催者の側から整理しています。会場や予約サイトの利用契約の全体は教室スペース・予約サイト・出店の契約にあります。このページは、その間に支援会社が入るときの、支援会社と出店者の契約だけを書きます。
結論は三つです。第一に、出店者としての登録のような共通のことがらと、催事ごとの日時・会場・出店料・キャンセルの条件を、基本契約と個別の覚書に分け、食い違ったときの優先順位と、覚書がないまま出店したときの扱いを決めておくことです。第二に、売上が主催者から支援会社を通って出店者に戻る形をとるときは、どの順序で何を差し引き、外国の通貨なら何を基準に円に換え、どんな精算書で知らせるかを書くことです。第三に、会場の管理者の判断で催しが中止になったり、出店が制限されたりする場合は、支援会社にも出店者にも止められないため、費用と損失を誰がどこまで負担するかを、免責の一文に任せず、返すものと返さないものに分けて書くことです。
| 決めること | 基本契約 | 個別の覚書 | 精算書・通知 |
|---|---|---|---|
| 出店者の資格と登録 | 登録の条件、登録料、期間、更新、取消し | (置かない) | 登録の可否の通知 |
| 催事の日時・会場・区画 | (置かない) | 催事ごとに記載する | 変更があったときの通知 |
| 出店料・手続の費用 | 費用の種類と、支払義務が確定する時点の考え方 | 催事ごとの金額、期限、振込手数料の負担 | 請求書 |
| 売上の精算 | 控除の順序、換算の基準、支払の時期 | 催事ごとの売上の出どころ、分配、控除の内訳 | 精算書(売上、控除、レート、支払額) |
| 中止・縮小・キャンセル | 原因別の基本の扱い、免責の範囲 | 催事ごとの取消しの条件 | 中止の決定の通知 |
| 守ること(会場のルール) | 共通の遵守事項、違反の措置 | 催事ごとの追加の注意 | 注意事項の送付 |
表の中身は一般的な整理の例です。実際には、催事の性質や、出店者が事業者か個人か、売上が出店者に戻る仕組みかどうかで、置き場所は変わります。
基本契約と個別覚書:何をどちらに置くか、食い違ったときの優先、覚書がないまま出店したとき
出店支援の契約では、最初に出店者としての登録を受け、そのあとで催事ごとに参加を申し込む形が多く見られます。登録は「出店できる資格」であり、参加は「特定の催事に出る約束」です。登録に関する費用(登録料)と、催事ごとの出店料は、性質が違うので、別の項目として書きます。登録料は手続や情報提供の対価として受け取るものなら、催事が中止になっても返さない扱いに筋が通ります。出店料は特定の催事の場所を確保する対価ですから、催事が実施されなかったときは返す、または実費を差し引いて返す扱いが自然です。二つを一つの「費用」としてまとめると、中止のときに何を返すのかが決まりません。
基本契約と個別覚書が食い違ったときの優先は、二通りの書き方があります。一つは「基本契約が優先する」と書く方法です。支援会社の側では、全出店者に共通の扱いを保てる利点があります。もう一つは「個別覚書に特別の定めがあるときは、覚書が優先する」と書く方法です。覚書は催事ごとの事情に合わせて作るものなので、その趣旨に合います。ただし、「基本契約が優先」とだけ書くと、覚書で催事ごとのキャンセル条件を定めても、基本契約の一般条項に押し戻されてしまい、覚書を作る意味が薄れます。覚書で基本契約の定めを変える場合は、変える条を明示して書く、と決めておくと食い違いが起きません。
条文例基本契約と覚書の関係
- 個別の催事への参加は、催事ごとに、日時、会場、出店の内容、出店料、取消しの条件その他必要な事項を記載した覚書(以下「個別覚書」といいます。)によって定めます。個別覚書は、甲乙が書面又は電磁的方法により合意した時に成立し、本契約の一部を構成します。
- 本契約と個別覚書の内容が異なるときは、個別覚書に本契約の条項を変更する旨とその条項が明記されている場合に限り、個別覚書が優先します。それ以外の場合は、本契約が優先します。
- 本契約が終了したときでも、終了前に成立した個別覚書に基づく催事への参加、並びに出店料及び売上の精算に関する権利義務は、当該催事の精算が完了するまで存続します。
「優先」の書き方は、基本契約を優先する型、覚書を優先する型、覚書で変更する条を明示させる型のいずれもあります。本文の型は、覚書による変更の範囲を明示に限った例です。
覚書が作られないまま催事の日が近づく場面も現実には起こります。「支援会社が参加を承諾し、出店者が催事に参加した事実があれば、覚書がなくても、基本契約と支援会社が提示した条件によって権利義務が成立する」という条は、費用の請求の根拠を残す意味があります。ただ、この条は、出店者にとって、提示された条件の中身を確認しないまま責任が生じるおそれがあります。出店者が確認していない条件で義務を負う形になるため、争いになったときは「提示した条件を出店者が知っていたか」が問題になります。運用としては、参加の承諾の通知に、日時、会場、出店料、取消しの条件の四つを書き、出店者が受領を確認する返信をする、という最小限の手順を入れておくと、覚書の署名が間に合わない場合でも、後で説明できます。
ヒヤリングで確かめること 個別覚書に入れる欄
- 催事の名称、日時、会場、出店できる区画や台数は決まっていますか。区画が決まらないまま出店料だけが確定する運用を避けるため、未定の項目は「未定」と書いて、決まった時点の通知方法を併記します。
- 出店料、登録とは別の手続の費用、振込手数料の負担者は書かれていますか。催事ごとに費用が変わるため、基本契約には種類だけを置き、金額と期限は覚書に置きます。
- 売上がどこから支払われ、どの控除が入るかは、この催事で変わりますか。売上の出どころが催事ごとに違うなら、覚書に書いて、精算書の内訳と一致させます。
- 催事が中止になったとき、出店者が自分の都合で出店をやめたときの扱いが、それぞれ分かれていますか。原因別の扱いは、基本契約に原則を置き、覚書では催事の性質に合わせた例外だけを書きます。
- 会場のルールのうち、この催事に特に関係するものは何ですか。服装や撮影、火気や電源の使用などは催事ごとに違うので、覚書か別紙で示し、出店者の確認を取ります。
契約を終わらせる場面も、基本契約と覚書で整理が必要です。支援会社が出店者の登録を受けて業務を行う関係は、法律の整理としては、事務の処理を頼む準委任(民法643条、656条)に近い性質を持つことがあります。準委任は、各当事者がいつでも解除できるのが原則で(民法651条1項)、相手方に不利な時期に解除したときは損害を賠償する場合があります(同条2項)。契約書に「相手方に違反がなくても、一定の日数前に通知して終了させる」任意の終了を定める場合は、通知の期間のほかに、すでに成立している個別覚書の催事を、終了後も履行する範囲を決めておくことが欠かせません。出店者が終了を通知したあとで、成立済みの催事への出店を理由なく取りやめれば、その催事に限った債務不履行の問題が生じます。終了の通知が、成立済みの覚書の義務を免れさせるものでないことは、前の条文例のとおり、存続の条に書いておきます。
売上が主催者から支援会社を通って出店者に届くとき:控除の順序・換算・精算書
出店者が自分で売上を受け取る催事なら、支援会社の取り分は出店料だけで済みます。しかし、催事によっては、来場者が支払った代金を主催者の側の仕組みが集計し、主催者が自分の手数料を差し引いたうえで、支援会社に支払い、支援会社がさらに差し引いて出店者に払う、という流れになります。取引によっては、主催者から支援会社への支払が外国の通貨で行われることもあります。ここでは、出店者が受け取る額が、控除の順序と換算の仕方で変わる点を整理します。
売上が出店者に届くまでの順番(一例)
- 1 出店者が来場者に販売する販売の主体は出店者です。返品、不良品、クレームへの第一の対応は出店者が行うのが基本です。
- 2 主催者の側が売上を集計し、受領する売上の管理の仕組みを主催者の側が持つ場合、代金は出店者ではなく主催者のもとに集まります。
- 3 主催者が、自分の取り分を差し引くこの率は、主催者と支援会社の取決めによることが多く、出店者は主催者と契約していないため、率を知らないことがあります。
- 4 支援会社が残りを受け取る外国の通貨で支払われるときは、その通貨のまま受け取ります。
- 5 支援会社が、自分の管理手数料を差し引くどの金額に対する割合かで、出店者の受取額が変わります(次の算式)。
- 6 円に換算し、実費を差し引く入場の手続費、両替や送金の手数料など、実費の内訳を精算書に載せます。
- 7 精算書とともに、出店者に支払う精算書の交付日、異議の期間、支払の期日を決めます。
差し引く順序は、算式にすると違いが見えます。売上の総額をA、主催者の取り分の率をp、支援会社の管理手数料の率をqとします。第二の率を「主催者の控除後の残額」に掛ける書き方なら、手数料を引いた後の額はA×(1−p)×(1−q)です。第二の率を「売上の総額」に掛ける書き方なら、A×(1−p−q)になります。前者のほうが出店者の取り分は、A×p×qだけ多くなります。率の数字そのものよりも、「何に対する割合か」を条文に書いているかどうかが、精算の争いを左右します。「残額から○%」「売上の総額の○%」のどちらなのかを、はっきり書きます。金額を表示するときは、税込か税別かも、あわせて明記します。
外国の通貨で支払われる場合の換算は、さらに決めることが増えます。民法403条は、外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は履行地における為替相場により日本の通貨で弁済できるとしています。出店者への支払を円で行うと決めるなら、どの日の、どの出どころのレートを使うのかを契約に書いておくほうが、条文に頼るより明確です。基準日の置き方には、次のような型があります。
| 基準日の型 | 内容 | 向き・注意 |
|---|---|---|
| 入金日の型 | 主催者から支援会社に入金があった日のレートを使う | 支援会社の実際の両替の日に近く、差損が出にくい。入金日が出店者に分かる通知が要る |
| 期間で区切る型 | 月の前半と後半に入金があった分を、それぞれの区切りの日のレートで換算する | 計算が単純。入金日と区切りの日の間で、レートが大きく動くことがある |
| 精算書の作成日の型 | 精算書を作る日のレートを使う | 作成日が遅れるほどレートの変動の影響が出店者に及ぶ。作成日の期限を決める |
| 実際の両替額の型 | 支援会社が実際に両替した円の金額を使う | 出店者の負担が実態に近い。両替手数料の控除と二重にならないようにする |
レートの出所(公表されているどのレートか、売り値か買い値か、時刻はいつか)も書いておくと、後で数字が合わなくなりません。
為替の差が出るのは、レートの取り方だけではありません。出店者の売上は円ではなく外国の通貨で確定し、それが円に換わるまでの間にレートが動けば、出店者か支援会社のどちらかが差益や差損を負います。支援会社が「為替の変動の危険は出店者が負う」と書くなら、その旨を契約と精算書の両方で示し、出店者が納得して契約に入れるようにします。逆に支援会社が負担する場合は、その範囲(一定の幅まで、など)を決めます。
精算書は、出店者が受取額を確かめる唯一の書面になることが多いので、記載する項目を決めておきます。
- 売上の総額(外国の通貨のままの額)と、その集計の対象期間。
- 主催者が差し引いた額と、支援会社が受け取った額。
- 支援会社の管理手数料と、その計算の基礎になった額。
- 入場の手続費、両替や送金の手数料などの実費の内訳。
- 適用した換算のレートと、基準日。
- 円建ての支払額、支払の期日、振込先。
契約に、精算書の内容を出店者が承認したものとみなす旨を書く例があります。この書き方は、出店者が軽微な誤りの訂正を求める道を閉ざしかねません。精算書を受け取った日から一定の期間は異議を述べられること、異議が出たときは支援会社が集計の根拠となる資料(主催者から受けた集計の写しなど)を、秘密にすべき部分を除いて示すこと、と書いておくと、出店者も支援会社も後の争いを避けられます。主催者から受けた集計は、支援会社自身が検証できないことがあります。その場合は、「主催者から受けた集計に基づく」旨と、主催者の集計に誤りが見つかったときの訂正の手順(次回の精算で調整する、など)を書いておきます。販売の後に返品や取消しがあったときは、すでに精算した売上を後から戻す方法(次回の精算から差し引く、直接払い戻す)も決めておきます。
会場の管理者が中止や参加制限を決めるとき:免責の範囲と、出店料・実費の扱い
出店支援の契約で最も揉めやすいのは、出店者に落ち度がないのに、催事が中止になったり、出店者の入場や出店が制限されたりしたときのお金です。会場の管理者や主催者が、事前の予告なく中止、延期、内容の変更、参加の制限、立入りの制限を決めることがあり得る催事では、この危険を出店者に隠さず、契約の冒頭近くで示しておきます。出店者が危険を知らされたうえで契約したのかどうかは、後に免責の条項の効力を考えるときの前提になります。
| 原因 | 出店料 | 支援会社が支出済みの実費 | 出店者の準備費用・売上の見込み |
|---|---|---|---|
| 会場の管理者や主催者の判断で、催事が実施されない(出店者に落ち度がない) | 未払いなら請求しない。支払済みなら、実施されなかった催事に対応する分を返す | 支援会社が出店者のために支出した手続費などは、返還額から差し引く扱いもある。内訳を示す | 出店者の準備費用や売上の見込みは、支援会社が負担しない、と書く例が多い |
| 会場の管理者の判断で、特定の出店者だけ入場や出店が認められない | 個別の事情による。出店者に落ち度がなければ、全額の返還か、再度の機会の提供を協議する | 手続費のうち、実際に使われた分 | 同上 |
| 支援会社の通知の遅れや誤りが原因で、出店できなかった | 返還する | 出店者に請求しない | 支援会社の責任が問われる。上限や範囲を契約に書く場合は、故意・重大な過失を除く |
| 出店者の違反や書類の不備が原因で、出店できなかった | 返還しない扱いが多い | 出店者が負担する | 出店者の負担 |
表は考え方の整理です。金額の割合や期限は、催事の規模や支援会社の実際の支出に合わせて、覚書で決めます。
契約書の免責の条には、「催事が実施されない場合でも、支援会社は一切の責任を負わない」と書く例が見られます。この書き方には、三つの問題があります。第一に、支援会社自身の故意または重大な過失による場合まで責任を免れる趣旨に読めることです。事業者どうしの契約であっても、当事者の一方に不当に有利な免責は、民法90条(公序良俗)の問題になり得ます。第二に、「一切の責任」に、出店料の返還が含まれるのかが分からないことです。第三に、出店者が先に支払った費用の行き先が書かれていないことです。
書き方の例(一般的な例) 会場側の判断による中止と免責
責任を負わない範囲
理由責任を負わない対象を「営業上の損失」に絞り、故意・重過失の例外を置けば、免責の条項として働きます。
出店料の扱い
理由「出店の有無や売上の有無にかかわらず」の条は、出店者の都合のときに働く条と、催事そのものが消えたときの条を分けて書かないと、催事が実施されない場合まで含むように読まれます。
代替の機会
理由義務にはせず、努力の内容を書くと、出店者の納得が得やすく、支援会社の負担も限られます。
民法の考え方も押さえておきます。当事者双方に責めがない事由で債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができます(民法536条1項)。催事そのものが実施されなければ、会場を確保する支援会社の債務は履行できなくなり、出店者は出店料の支払を拒める場面があります。これに対し、出店者の責めに帰すべき事由で履行できなくなったときは、出店者は拒めません(同条2項)。ただ、支援会社が入場の手続や準備ですでに行った業務は、履行の割合に応じた報酬を請求できるという整理もあり(準委任について、民法648条3項)、実際には、実施されなかった催事に対応する出店料の返還と、実施済みの業務の対価の精算を、組み合わせることになります。契約で「返すもの」「返さないもの」を決めておくのは、この組合せを、中止のたびに争わないためです。
中止・不参加の原因を切り分ける順番
催事が実施されなかった、又は出店できなかった原因は、会場の管理者や主催者の判断ですか。
はい会場側の判断として、出店料の返還と実費の精算(上の表の一行目・二行目)を行う。出店者の売上の見込みは負担しない。
いいえSTEP2へ。
原因は、支援会社の通知の遅れ、手続の誤り、情報の取り違えにありますか。
はい支援会社の責任として、出店料を返還し、実費は請求しない。出店者の損害は、契約の上限と、故意・重過失の例外の定めに従って扱う。
いいえSTEP3へ。
原因は、出店者の違反、書類の不備、約束した準備の遅れにありますか。
はい出店者の責任として、出店料は返還しない扱いにする。支援会社が支出した実費は出店者が負担する。
いいえ原因が複数ある、又は特定できない。割合を協議する条(寄与の割合による按分)を使う。
原因が重なるときは、「支援会社の通知の遅れと、会場の判断が重なった」のように、寄与の割合を協議する旨を基本契約に書いておくと、処理が早く済みます。
支払の遅れ・参加承諾の取消し・相殺・返さない費用の書き方
支援会社から見れば、出店者が出店料を期限までに払わないとき、催事の日は動かせません。区画を別の出店者に割り当て直す必要があるため、支払のない出店者の参加の承諾を取り消せる条は、実務上意味があります。ここでは、費用の支払に関する条を、支払義務が確定する時点、遅れたときの措置、相殺、返さない費用の四つに分けて整理します。
支払義務が確定する時点は、覚書が成立した時、参加の承諾の通知を受けた時、開催の一定日数前、のいずれかに置けます。確定の時点を早く置くほど、支援会社には確実ですが、出店者が出店をやめたいときの負担が重くなります。出店者の都合による取消しの段階(早い時期は全額返還または事務手数料のみ、準備が進んだ後は一部、直前は全額、など)を別に決めるなら、確定の時点とその段階の関係を揃えておきます。取消しの段階の考え方は、展示会・マルシェ・イベントの出展規約(主催者側)に書いてあります。
支払が遅れたときの措置は、段階を踏めるように書きます。たとえば、期限を過ぎたら連絡をし、さらに一定の期間内に払われなければ、その催事への参加の承諾を取り消せる、とします。債務の不履行があったときに契約を解除するには、通常、相当の期間を定めた催告が要ります(民法541条)。ただ、特定の日時に履行しなければ契約の目的を達成できない契約で、その日時を過ぎたときは、催告なしに解除できます(同法542条1項4号)。催事は日程が決まっているため、「支払期限までに入金がないときは、催告なしに参加の承諾を取り消せる」と契約に定めておく意味があります。もっとも、取消しの前に出店者へ最後の連絡をすると決めておくと、入金の行き違いで区画を失うトラブルを減らせます。
遅延損害金は、約定がなければ、法定利率によります(民法404条1項。法定利率は、同条3項から5項により、三年を一期として見直されます。現在の利率は、法務省が告示で公表する値で確認します)。契約で特定の率を定めるときは、事業者どうしの契約であっても、支払の遅れに対して重すぎる率でないかを見直します。個人で事業をしている出店者が相手のときは、取引の実態から見て、率を出店者が知らされて合意したことが分かるようにしておくことが、後の争いを避けます。
相殺は、支援会社が出店者に払う売上の精算金と、出店者が支援会社に払うべき出店料や手数料を、差し引く方法です。二人が互いに同種の債務を負い、双方の弁済期が来ていれば、民法505条1項により相殺ができます。契約で「支援会社は、自己の裁量で相殺できる。出店者はあらかじめ同意する」と書く例がありますが、「自己の裁量」とするだけでは、どの債権とどの債権を、どの順序で差し引くのかが分かりません。相殺する前に出店者に通知すること、相殺した内訳を精算書に載せること、争いのある債権は対象にしないこと、の三点を書いておくと、出店者の納得が得られます。
「いかなる理由でも返還しない」と書く費用は、その性質を示しておきます。登録料は手続や情報提供の対価、入場の手続費は第三者に支払う実費、出店料は区画の確保の対価、と性質が違います。返還しない理由が説明できる費用に限って「返還しない」と書き、「特段の事情があるときは、支援会社が返還を認めることがある」と例外を残しておくと、条項が強すぎるという批判を受けにくくなります。
会場関係者との直接取引の禁止、通知の到達、情報の正確性、個人情報:遵守事項の書き方
個別覚書には、出店者が守ることを細かく書く例があります。会場の関係者との直接の取引の禁止、撮影や情報発信の禁止、服装、トラブル時の対応、などです。これらは、支援会社が会場や主催者との関係を守るために置くものですが、書き方を誤ると、出店者の正当な営業まで縛る内容になります。
直接取引の禁止は、支援会社を通さずに、会場の関係者と営業や契約、連絡先の交換をすることを禁じる条です。目的は、支援会社が築いた関係を飛び越えて取引されることの防止です。この条は、対象となる相手の範囲、禁止する取引の種類、期間の三つを限定して書きます。「催事の期間中及び終了後を問わず」と期間を限定しないと、出店者が長期にわたり、自分の商品を売る機会を失います。公序良俗に反する制限は無効になり得るので(民法90条)、禁止の範囲は、支援会社の保護に必要な限度にとどめます。会場側から出店者に直接声がかかったときは、断るのではなく、支援会社に報告して調整する、という形にすると、実務に合います。
撮影や情報発信の禁止は、会場の規則から来るものであれば、その規則を出店者に示します。会場の公式の提携先であるかのような、誤解を招く表現を禁じる条は、出店者の広告の表現を制限するものなので、禁じる表現の例を具体的に挙げておきます。服装の規定も、会場の規則と一致しているかを確かめ、「不適切と判断した服装」という抽象的な書き方より、禁じる服装の例を書くほうが、争いになりません。
トラブルが起きたときに、出店者が支援会社の指示なく独断で対応や謝罪をすることを禁じる条は、範囲に注意します。会場や主催者に対する謝罪や約束を、支援会社を通すのは合理的です。しかし、出店者が自分の商品について来場者に対して負う責任(不良品の交換や返金)まで、支援会社の指示がないとできないとするのは行き過ぎです。禁じる対象を「会場及び主催者に対する謝罪、約束、取材への対応」に絞っておくと、出店者の義務と衝突しません。
通知の手段は、電子的な連絡の手段を使うことが増えています。「送信した時に到達したものとみなす」と契約に定める例があります。民法は、意思表示が相手方に到達した時から効力を生じるとしています(民法97条1項)。契約で到達の時を送信時に前倒しすること自体はできますが、中止の決定、条件の変更、参加承諾の取消しのように、出店者の準備に直結する通知は、送信だけで済ませず、受領を確認する返信を求める、又は別の手段(メール、電話)を併用する、と決めておきます。そうしないと、通知を見ていない出店者が、準備した商品の仕入れを済ませてしまい、損害の責任の押し付け合いになります。
支援会社が提供する催事の情報は、主催者から受けた内容にもとづくため、「その正確性、完全性、最新性を保証しない」と書く例があります。保証しない、と書くこと自体は妥当ですが、それだけでは、誤りを知ったのに伝えなかった場合まで免れるように読まれます。「誤りに気づいたときは、遅滞なく出店者に通知する」「故意又は重大な過失がある場合は、この限りでない」と加えておくと、保証しない条の範囲が妥当に収まります。
入場の手続などで、支援会社が出店者の本人確認の情報を預かることもあります。個人情報を扱う事業者は、その取扱いで漏えい、滅失、毀損が起きないよう、必要かつ適切な安全管理措置を講じる義務があり(個人情報保護法23条)、取扱いを委託するときは、委託先に対する必要かつ適切な監督を行う義務があります(同法25条)。契約には、情報を使う目的を入場の手続や催事に必要な連絡に限ること、会場や主催者への提供の範囲、保管の期間と、終了後の返却や削除の手順を書いておきます。
出店者の側から契約書を点検するときの問い
出店者が契約書を受け取ったときも、上の整理は役に立ちます。支援会社が示す書面は、多くの出店者に共通の内容で作られているため、自分の事情に合わない点が含まれていることがあります。次の問いで点検します。
ヒヤリングで確かめること 出店者として確かめること
- この契約書で、支援会社は出店者と、どんな関係にありますか。出店者の代理人なのか、主催者の窓口なのか、単に情報を伝える立場なのかで、責任の範囲が違います。契約書の冒頭の目的の条を読みます。
- 支払うお金は、何の対価で、いつ確定し、どんなときに返りますか。登録料、出店料、実費、管理手数料を分けて、中止と自分の都合の取消しのそれぞれで、返るかどうかを確かめます。
- 売上は、誰から、いつ、どんな控除を受けて、いくら支払われますか。控除の割合が何に対するものか、換算のレートの基準日、精算書の項目、異議の期間が書かれているかを確かめます。
- 会場側の判断で中止になったとき、出店者が負担するものは何ですか。免責の範囲に故意・重過失の例外があるか、出店料の返還があるか、実費の内訳が示されるかを確かめます。
- 連絡は何の手段で届き、見落としたときの責任はどうなりますか。到達の時点が送信時とされているなら、重要な通知の確認の手段が別にあるかを確かめます。
- 契約をやめたいとき、成立済みの催事はどうなりますか。終了の通知の期間と、成立済みの覚書の催事を履行する義務が、どこまで続くかを確かめます。
出店者が個人で事業をしている場合、契約書の題名が「業務委託」でも、法律が適用されるかどうかは、題名では決まりません。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)は、業務委託を、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造や情報成果物の作成、役務の提供を委託することと定義しています(同法2条3項)。出店者が自分の商品を売るために出店料を払う関係と、出店者が支援会社のために販売などの役務を行う関係とでは、当てはまり方が違います。後者の形で個人の事業者に業務を委託するなら、報酬の額や支払期日などを書面又は電磁的方法で明示する義務が生じます(同法3条)。契約の形と実態が合っているかを、条文の定義に照らして見直しておきます。
出張講座や教室の受託契約でも、基本契約と個別契約を分ける組み立てを使います。中止の原因の切り分けや、人数に連動する料金の考え方は出張講座・ワークショップの受託契約にあり、同じ発想を催事の出店に当てはめたものが、このページです。教室や講座で、発表会やイベントに生徒を参加させる契約は発表会・ライブ・大会・コンテストの参加規約で書いています。事故やけがの責任の分担は事故・けがと免責条項で、会場・道路・飲食の許可や届出を誰が確認するかは会場・道路・興行・飲食の確認事項と責任分担で扱っています。
よくあるご質問
出店者から登録料を受け取る場合、催事が中止になったときも返さなくてよいですか。
登録料の性質によります。登録の手続や情報提供の対価として受け取るもので、催事が実施されるかどうかとは関係がない費用なら、返さないという扱いに理由があります。催事ごとの出店料は区画の確保の対価なので、催事が実施されなかったときは、返す、又は実費を差し引いて返す扱いになるのが自然です。二つを分けて書き、返さない費用には「返さない理由」を契約に示し、特段の事情があるときの例外を残しておくと、条項が強すぎるという批判を受けにくくなります。
売上が外国の通貨で支払われるとき、為替の変動は誰が負担するのが一般的ですか。
決まった型はなく、契約で決める事項です。出店者が負担すると書くなら、基準日(入金日、期間の区切りの日、精算書の作成日、実際の両替の日のいずれか)とレートの出所を書き、精算書にも載せます。支援会社が一部を負担するなら、その幅を決めます。出店者への支払を円で行うなら、民法403条の考え方(債務者は履行地の為替相場で円で弁済できる)に頼らず、契約でレートの基準を書いておくほうが、争いになりません。
覚書を交わす前に出店を承諾して参加させた場合、後から費用を請求できますか。
基本契約に「承諾し、出店者が参加した事実があれば、提示した条件によって権利義務が成立する」という条があれば、請求の根拠にはなります。ただ、提示した条件を出店者が知っていたかが争点になります。参加の承諾の通知に、日時、会場、出店料、取消しの条件を書き、出店者が受領を確認した記録を残しておくと、覚書の署名が間に合わなくても、説明ができます。
会場の管理者の判断で催事が中止になった場合、出店者に出店料を返す必要はありますか。
催事が実施されなかったのですから、実施されなかった催事に対応する出店料は、返すのが原則の考え方です(民法536条1項の反対給付を拒める場面)。ただし、支援会社が出店者のために支出済みの手続費などの実費は、内訳を示して差し引ける旨を契約に書いておけます。出店者の売上の見込みの喪失については、支援会社が負担しない、と書く例が多く、その場合も、支援会社自身の故意又は重大な過失は例外とします。
出店者が個人事業主の場合、契約書で気をつけることはありますか。
契約書の題名にかかわらず、フリーランス法の「業務委託」に当たる形なら、報酬の額や支払期日などを明示する義務が生じます(同法2条3項、3条)。出店者が自分の商品を売る関係なのか、支援会社のために役務を行う関係なのかを、実態に合わせて書きます。遅延損害金の率や、相殺、直接取引の禁止の範囲も、個人が相手のときは、合意した事実が分かるように、条文を具体的にしておきます。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。法令の運用や行政の解釈は、改正や個別の事情によって変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 観光庁