このページの要点
- 全部の免責は無効(消費者契約法8条1項1号・3号)。上限は軽い過失の場合に限ることを条項の中で明らかにする。
- 主催者が行うこと(人員の確認・生活面の案内・体調の確認と連絡)と、参加者に求めることを書き分ける。
- 危険の内容を具体的に説明し、持病などの申告と、合理的な安全上の指示の範囲を示す。
- 施設を借りる教室は、床・設備と指導中の事故の分担、保険、利用者の管理を利用契約で決める。
結論:免責の一文に頼らず、主催者の安全の手当て・例外付きの上限・保険の三つで組み立てる
教室やイベントの規約で最もよく見かける条項の一つが、「レッスン中・イベント中の事故、けが、盗難について、当方は一切責任を負いません」という一文です。消費者を相手にする契約では、この一文はそのままでは効きません。事業者の債務不履行や不法行為の賠償責任を丸ごと外す条項は、消費者契約法8条1項1号・3号により効力がありません。「重大な過失がなければ責任を負わない」という書き方にしても、軽い過失のときの責任を全部免除する条項として、同じく無効になり得ます。
効く規約にするには、免責の文言に頼るのではなく、教室・主催者がすること(安全の配慮の中身)と、参加者・保護者に求めること(申告・準備・連絡)を具体的に書き、責任の上限を置くなら故意・重大な過失や生命・身体の侵害を例外として条項自体に書き、残るリスクは保険で備えることです。このページでは、海外団体プログラムの参加規約、体験の予約サービスの規約、商業施設内のレンタルスタジオの利用契約、オンラインレッスンの規約、会員制の音楽スタジオの利用規約から整理します。
教室・イベントの免責の一文を消費者契約法8条に当てはめる
消費者契約法8条は、事業者の損害賠償責任を免除する条項を、次のように分けて無効としています。
| 条項の形 | 効力 | 条文 |
|---|---|---|
| 債務不履行・不法行為による責任の全部を免除する | 無効 | 8条1項1号・3号 |
| 事業者に責任の有無を決めさせる | 無効 | 8条1項1号・3号 |
| 故意・重大な過失による責任の一部を免除する | 無効 | 8条1項2号・4号 |
| 軽い過失による責任の一部を免除するが、軽い過失のときに限る旨が条項から読み取れない | 無効 | 8条3項 |
| 軽い過失による責任の一部を免除し、軽い過失のときに限る旨を条項に明記している | 有効になり得る(10条の審査は残る) | 8条3項の反対解釈 |
「故意・重過失の場合のほかは一切責任を負わない」は、軽い過失の場合の責任を全部免除する形なので、1号・3号の問題になります。
効く書き方は、責任の上限(例えば受け取った参加費の額)を置き、その上限が軽い過失の場合にだけ適用されることを、条項の中で明らかにする形です。事業者の故意・重大な過失による場合を除くと書くときは、「当事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失」と、法律の文言どおりに書きます。オンラインの日本語レッスンの修正版では、賠償の上限の例外をこのとおりに書き、「使用する者」に業務委託の講師を含めるよう講師の定義も整えました。講師が業務委託の場合に、講師の重大な過失が例外に入るのかどうかの曖昧さを残さないためです。
事業者どうしの契約(教室を運営する事業者が施設を借りる契約など)には消費者契約法は適用されませんが、故意や重大な過失による損害まで免れる条項は、公序良俗(民法90条)などを根拠に効力が否定されることがあります。不特定多数を相手にした定型約款に当たれば、相手の利益を一方的に損なう条項は、合意の内容から外れます(民法548条の2第2項)。相手が事業者でも、全面的な免責に頼らないほうがよいことに変わりはありません。
主催者がすることを書く:安全配慮の中身
10代向けの海外団体プログラムの参加規約では、安全配慮義務は規約で免れることができないことを前提に、主催者が行うことと、保護者に求めることを具体的に書き分けました。安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者が、信義則上負う義務として最高裁が認めたもので(最判昭和50年2月25日)、高校の課外活動中の落雷事故で引率の教諭の注意義務が問われた最高裁判決(最判平成18年3月13日)も、説明資料で紹介しました。
| 主催者が行うこと | 保護者・参加者に求めること |
|---|---|
| 参加者の人員の確認 | 安全な参加に必要な事項の申告 |
| 生活面の案内 | 参加のための準備 |
| 体調の変化があったときの確認と、保護者への連絡 | 連絡がつく状態の確保 |
| 同行スタッフの役割の範囲の明示(個別の付添いはしないことを含む) | 団体行動の前提を理解したうえでの申込み |
主催者として見られるかどうかも、責任の範囲に影響します。事務所の説明資料では、主催者に当たるかどうかは名目ではなく、運営への関わり方(会場を借りる、募集の資料に主催者として名前を載せる、申込みを受け付ける、現地に同行するなど)から見られやすいことを示し、募集のページ、申込みの受付、現地への同行の事情から、依頼者も主催者と見られやすいと説明しました。「引率」という言葉を使ってよいかという質問には、違法ではないが「同行」に統一するよう勧めました。引率という語は、企画旅行の旅程管理や学校の引率教員のような広い監督の責任を連想させ、実際に行うサポート(人員の確認・生活面の案内・連絡)とも合わないためです。
事故や急病が起きたときの手順も、規約と申込みの書類で先に決めておきます。海外団体プログラムでは、医療を受けることについての事前の同意を申込みの段階でもらい、現地の医療機関に示せる英語の同意書も用意しました。体調の変化があったときに、誰が確認し、誰が保護者に連絡し、どの時点で医療機関に連れて行くのかを書いておくと、主催者が行った安全の配慮を、事故の後に具体的に説明できます。
海外団体プログラムの責任の条:参加費の上限・人身の例外・寄与の割合
同じ参加規約では、責任の上限と免責の事由を次のように組み立てました。
条文例責任の範囲(海外団体プログラムの参加規約の例)
- 当社は、本プログラムの実施に関し、当社の責めに帰すべき事由により参加者に損害を与えたときは、その損害を賠償します。教育部分を提供する機関の行為は、当社の行為とみなして責任を負います。
- 前項の場合において、財産上の損害についての当社の賠償額は、当社が受領した参加費の額を上限とします。ただし、当社、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合、及び参加者の生命又は身体を害した場合は、この限りではありません。
- 不可抗力、参加者による遵守事項の違反、申告すべき事項の申告漏れ、保険への未加入又は第三者の行為が損害の発生又は拡大に寄与したときは、その寄与の割合に応じて賠償額を減じます。当社に故意又は重大な過失があるときは、この項による減額をしません。
上限の例外を上限の条の中に置くのは、上限が軽い過失のときに限って働くことを条項自体で示すためです(消費者契約法8条3項)。
教育部分を提供する現地の機関の行為を主催者の行為とみなし、主催者が責任を負ったうえで機関に求償する形は、参加者から見て、誰に責任を問えばよいかが分かりやすくなります。機関を選び監督することに注意を尽くしたことを理由に主催者が免れる、という定めは置いていません。免責の事由を「寄与の割合に応じて減じる」と書けば、参加者の側に事情があっても、主催者の落ち度と重なる場合に全部を免れる形にはなりません。
受け取った参加費を上限にすると、参加者が支払った対価と、主催者が負うリスクの釣り合いを説明しやすくなります。ただし、生命や身体を害した場合まで参加費の額で打ち切ると、人身の損害の重さと釣り合わず、消費者契約法10条で効力を否定されるおそれも高まります。人身の損害は上限の外に置き、その部分は主催者の賠償責任の保険で備える、と考えておくのが現実的です。
危険を伴う体験の参加条件と、指示に従わなかった場合
体験・アクティビティの予約サービスの規約の修正版では、利用者が、自然環境・気象・海象・水難・転倒・機材などで負傷などの危険が生じ得ることを理解し、了承して参加すること、持病・妊娠・障害などを事前に申告すること、体験の提供元が参加を断り又は中止できることを定めました。危険の説明は、参加者が危険を引き受けたことを示す材料になりますが、それだけで主催者や提供元の安全配慮が不要になるわけではありません。説明する危険を具体的に書くほど、参加者は自分で備えることができ、提供元は安全の確保に必要な判断(参加を断る、中止する)をしやすくなります。同じ規約では、予約サービスの運営者は体験を提供する主体ではなく、提供元の安全管理・許認可・保険を保証しない、とも書き分けました。参加者の健康状態やアレルギーなどの情報を提供元と共有するなら、その範囲と方法をプライバシーポリシーで示しておきます。
参加者が指示に従わなかったときの事故について、「指示に従わずに生じたけがについて一切責任を負わない」と書く規約もあります。この書き方では、指示そのものが不適切だった場合や、事業者の側の安全の配慮が足りなかった場合まで免れるように読めます。事務所のレビューでは、「合理的な安全上の指示に違反したことに起因する損害について、事業者に責めに帰すべき事由がない限り」という程度に絞るよう勧めました。指示の内容を事前に示しておくことも、指示に従わなかったと言える前提になります。
安全のために参加を断ったり、当日の内容を変えたり中止したりする権限を置くなら、そのときのお金の扱いも同じ規約に書きます。申告の内容から参加を断った場合に参加費を返すのか、悪天候で中止した場合に全額を返すのか、一部だけ実施した場合はどう精算するのかが書かれていないと、安全のための判断が、返金を惜しんだ判断のように受け取られます。中止と返金の書き方は振替・休講と、最少催行人数・中止で扱います。宿泊を伴うプログラムで、途中で帰国してもらう場合の精算はツアー・遠征・海外プログラムの取消料と旅費で扱います。
教室・スタジオの事故:類型ごとに責任の主体が変わる
商業施設内のレンタルスタジオを、ダンスやヨガなどのスクールが定期的に借りる利用契約では、施設を貸す依頼者の原案に、事故・けが・盗難などについて一切責任を負わない、という全面的な免責がありました。事務所のレビューでは、事故の類型によって責任を負う主体が変わることを意識して書き分けるよう指摘しました。
事務所の改訂例 レンタルスタジオの利用契約(事故と責任)
免責
理由事業者どうしの契約でも、全面的な免責は効力が否定されることがあり、相手方のスクールも受け入れにくくなります。
事故の類型
理由床材や設備は施設の管理、指導はスクールの責任、という分担を条文に反映します。
保険と参加者
理由施設に来るのはスクールの生徒や保護者です。施設とその人たちの間に直接の契約がないため、スクールを通じて守らせます。
このレビューでは、未成年の生徒の送迎・待機・迷子・引渡しの扱いも書くよう勧めました。子ども向けの教室では、教室の時間の前後に生徒がどこで誰の管理の下にいるのかが、事故のときの責任の分かれ目になります。英会話教室の受講規約は、お迎えはレッスンの終了までに玄関で待つ、生徒は迎えが来るまで廊下で待つ、遅れるときはLINEで連絡する、自転車やお迎えなしの場合と到着・帰宅の時には家に一報する、と書いていました。同じ規約は、帰宅の途中の事故について教室は責任を負わない、とも書いていました。教室の管理が及ぶ範囲を、引渡しの場所と時刻で区切り、その後の移動は保護者の管理とする、という形で書いておけば、責任の範囲の線引きを説明しやすくなります。送迎と引渡しの書き方は未成年・保護者・家族受講と健康の申告で扱います。
設備や楽器の破損も、教室・スタジオに特有の事故です。会員制の音楽スタジオの利用規約では、通常の使用による損耗や自然故障は会員の責任の外としていました。会員が機材を壊した場合に、修理費に加えて修理の期間中の営業の補償まで一律に負担させる定めは、消費者との契約では、実際に生じる損害との釣り合いを説明できないと、消費者契約法10条の審査を受けるおそれがあります。損耗・故障と、会員の過失による破損を分け、破損のときは修理費の実費を基本にするのが説明しやすい形です。ダンス・体操のスタジオの会員規約では、施設の利用を制限し又は一時的に閉鎖する場合があること、会員が設備を壊したときは修理費を負担すること、忘れ物の保管の扱いを定めていました。忘れ物や貴重品は、保管する期間と、期間を過ぎたときの処分のしかたを書いておくと、教室が預かり続ける負担を避けられます。ロッカーなどで物を預かるサービスを有料で提供するなら、預かる物の責任の範囲を別に決めておきます。施設を借りる契約の全体の組み方はスタジオ・教室スペース・予約プラットフォーム・出店で扱います。
保険は、免責の条項の代わりに損害を埋める手段です。施設を借りるスクールには賠償責任の保険への加入を求め、出張の現場で働く講師やスタッフには、自分のけがに備える保険への加入に努めてもらう、という分け方が資料の中でも見られました。出演者との業務委託契約の改訂では、傷害保険への加入を義務から努力義務に改めた例もあります。同じ契約では、出演者の事故やけがは原則として出演者の責任としつつ、事業者の明示の指示に従ったことで生じた事故は協議する、と定めていました。誰がどの保険に入るのかを契約で決めておくと、事故のときに、規約の免責の文言で争う前に保険で解決できる範囲が分かります。講師・出演者との契約は講師・出演者・スタッフとの業務委託で扱います。
事務所の条文例:危険の説明と指示
ヒヤリングで確かめること 事故と責任の設計
- レッスン・イベントには、どのような危険がありますか(転倒、水辺、機材、移動、気象など)。危険を具体的に説明し、了承を得る条の材料にします。
- 教室・主催者が行う安全の手順は何ですか(人員の確認、体調の確認、連絡、医療機関への同行)。主催者が行うことを条文に書き、事故の後に説明できるようにします。
- 参加者・保護者に申告してもらう事項は何ですか。持病・服薬・妊娠・障害など、安全な参加に影響する事項を申込みの書類で尋ねます。
- 賠償の上限を置きますか。置くなら額の根拠は。上限は軽い過失の場合に限り、故意・重大な過失と生命・身体の侵害を例外にします。
- どの保険に、誰が入っていますか。主催者の賠償責任の保険と、参加者・講師の傷害の保険の役割を分けて確かめます。
- 施設を借りていますか。施設との責任の分担は決まっていますか。床・設備の事故と指導中の事故の分担を、施設との契約で決めます。
条文例危険の説明と申告(体験・イベントの規約の例)
- 参加者は、本イベントが自然環境、気象、海象、転倒、機材その他の事情により負傷等の危険を伴い得るものであることを理解し、これを了承して参加するものとします。
- 参加者は、持病、妊娠、障害その他安全な参加に影響し得る事情があるときは、申込みの際に申告するものとします。主催者は、申告の内容その他の事情から安全な参加が困難であると合理的に判断したときは、参加をお断りし、又は内容を変更することがあります。
- 参加者が主催者の合理的な安全上の指示に違反したことに起因して生じた損害については、主催者に責めに帰すべき事由がない限り、主催者は責任を負いません。
起きがちなこと
よくあるご質問
危険を伴う体験で、「自己責任」と書けば足りますか?
足りません。相手が消費者なら、事業者の賠償責任をすべて免れる条項は効力を持ちません(消費者契約法8条1項1号・3号)。危険の内容を具体的に説明して了承を得ること、持病などの申告を求めること、事業者が行う安全の配慮を書くこと、残るリスクを保険で備えることを組み合わせます。
参加者が指示に従わなかったときの事故も、責任を負いますか?
指示が合理的で、事前に示されていて、事業者の側に落ち度がなければ、責任を負わないと定めることはできます。「指示に従わなかった場合は一切責任を負わない」と広く書くと、指示が不適切だった場合まで免れるように読めるため、範囲を絞って書きます。
賠償額の上限は、いくらにできますか?
受け取った参加費の額などを上限にする例があります。その上限が軽い過失のときに限って働くことを、条項そのものに書いておく必要があります(消費者契約法8条3項)。故意・重大な過失の場合に加えて、生命・身体を害した場合も上限の外に置くのが安全です(同法10条)。
免責の条を「故意・重過失のときを除き、責任は負わない」とする書き方は使えますか?
消費者との契約では、軽い過失の場合の責任を全部免除する形になるため、無効とされ得ます。責任の上限を置き、その上限は軽い過失のときに限って働く、と条項に明記する形に改めます。
教室を借りて運営するとき、施設とスクールの責任はどう分ければよいですか?
床材や設備の欠陥は施設、指導中の事故はスクール、と事故の類型ごとに責任の主体が変わることを前提に条を組みます。スクールの保険への加入と、生徒・保護者・見学者に施設のルールを守らせる義務も定めておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。法令の運用や行政の解釈は、改正や個別の事情によって変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた教室の会員規約・受講規約・受講契約書・入会申込書、語学教室の概要書面・契約書面、ワークショップ・海外プログラム・大会の参加規約、講師・スタッフとの業務委託契約書、スタジオの利用規約・利用契約書、予約プラットフォームの規約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 観光庁