このページの要点
- 販売ページには対価・手数料・支払時期・キャンセルの可否を表示し、最終確認の画面で枚数と条件を確かめさせる(特商法11条、12条の6)。
- 不正転売禁止法の対象は、要件を満たす特定興行入場券を業として販売価格を超える価格で譲渡する場合。それ以外の転売は規約で禁止し、入場や払戻しに結び付ける。
- 中止・延期・出演者の変更・開演後の中断は場面ごとに払戻しの範囲を決める。「一切責任を負わない」でなく、故意・重過失を除く上限の形で書く。
- 入場拒否・退場・持込み・撮影録音の禁止は購入時に周知した事由に限る。障害のある来場者には個別の協議を書く。
結論:チケット規約は「買う前の表示」「買った後の権利」「当日の入場」を分けて書く
ライブ・公演・発表会・展示などの入場券(チケット)を販売する主催者の規約は、三つの場面に分けて考えると漏れが減ります。一つ目は買う前の表示で、価格・手数料・支払い・キャンセルの可否を、購入の手続の途中で見えるようにすることです。二つ目は買った後の権利で、転売の禁止と本人確認、公演の中止・延期・出演者の変更があったときの払戻しの範囲です。三つ目は当日の入場で、入場を断る事由、退場、持込みの禁止、撮影・録音の禁止です。
ここでいう主催者には、ライブハウスや劇場の公演の主催会社のほか、教室の発表会、ファンの集いのようなイベント、展示や体験の催しを有料で開く個人・団体も含みます。会場に観戦者を入れる大会はゲーム・カード大会の大会規約のページ、出展者から出展料を受ける展示会やマルシェは出展規約のページが、それぞれの入口になります。チケットは「公演を見る、聴く、体験する」という役務の提供を受ける権利なので、通常の商品と違い、日時が決まっており、当日が過ぎれば価値がなくなります。この性質が、転売の問題、中止時の払戻し、直前のキャンセルの扱いのすべてに響きます。
このページは、チケットを販売して公演・催しを開く側が規約を組むときの考え方を、法令の条文で確認できる範囲で整理したものです。教室の休講や月謝・回数券の返金は振替・休講・中止のページと月謝・入会金・レッスンチケットのページで、宿泊を伴う催しの取消料はツアーの取消料のページで扱っています。
チケットの規約が働く時の流れ
- 販売前(告知・販売ページ)価格、手数料、支払方法、キャンセルの可否、転売禁止、本人確認の有無を表示する。特定商取引法の表示義務と、景品表示法の不当な表示の禁止が関わる。
- 申込み(購入の手続)最終確認の画面で、枚数・対価・支払時期・提供時期・申込みの期間・撤回や解除の条件を表示する。誤操作を防ぐ確認の措置を置く。
- 購入後・公演前名義の変更、公式の譲渡や払戻しの手段、転売の禁止、公演内容の変更(出演者・時間・会場)の通知と払戻し。
- 当日本人確認、入場の拒否、手荷物の確認、持込みの禁止、撮影・録音の禁止、客席での行動。
- 公演後中止・中断の判断の記録、払戻しの手続と期限、転売や不正入場が判明した場合の措置。
販売の形と表示:特商法の表示、最終確認画面、手数料の見せ方
ウェブサイトや申込みフォームで有料のチケットを売る場合、公演などを観覧するという役務について、郵便その他の方法で申込みを受ける取引になりますから、通信販売の規律の対象になると考えられます(特定商取引法2条2項)。事業として継続して行うなら、広告には、同法11条が定める次の事項を表示します。役務の対価、その支払の時期と方法、役務の提供時期、申込みの期間に定めがあるときはその内容、申込みの撤回または解除に関する事項、そして主務省令で定める事項(販売業者・役務提供事業者の名称・住所・電話番号、法人が電子的に広告するときは代表者または責任者の氏名、対価以外に負担する金銭があるときはその内容と額、特別の条件があるときはその内容)です(同法施行規則23条)。クーリング・オフは通信販売にはありませんので、「購入後にキャンセルできるのか、できないのか」を、この表示の中で明らかにしておくことが、実際の紛争を減らします。通信販売の8日間の返品の制度(同法15条の3)は商品の売買についての規定で、公演への入場のような役務の提供には当てはまりません。
購入の申込みの画面にも表示の義務があります。顧客がパソコンやスマートフォンの画面で行う申込みの手続では、申込みを確定させる画面に、枚数、対価、支払の時期と方法、提供時期、申込みの期間、撤回・解除に関する事項を表示しなければならず、その画面で、申込みになることを人に誤認させる表示をしてはなりません(同法12条の6第1項、2項)。さらに、電子消費者契約では、事業者が申込みの意思の有無を確認させる措置(確認画面や訂正の機会)を設けていない場合に、消費者が操作の誤りなどで、意思表示に対応する意思がないまま申し込み、その錯誤が重要なものであるときは、重大な過失があっても民法95条3項の制限が働かず、取消しを主張できる余地があります(電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律3条)。枚数や日程の押し間違いが起きやすいチケット販売では、確認画面と、購入完了メールに公演の日時・枚数を再掲する運用が実務的です。
| 書く事項 | 内容の例 | 根拠・注意 |
|---|---|---|
| 価格と追加の費用 | 券面の価格、販売手数料、決済手数料、発券・配送の費用、システム利用料 | 対価以外に負担する金銭は、内容と額を表示する(特商法施行規則23条4号)。最後の画面で初めて見える費用は、表示の仕方によっては、実際より有利な取引条件と誤認させる表示(景品表示法5条2号)の問題になり得るため、総額を早めに示す |
| 支払の時期と方法 | カード、コンビニ、銀行振込、当日払い。支払期限と、期限を過ぎたときの申込みの取扱い | 支払のない申込みを取り消せる旨を書く |
| 提供時期と引渡し | 公演の日時、会場、開場・開演の時刻。電子チケットの表示開始日、紙のチケットの配送日 | 公演の日時が確定していないときは、その旨と、決定の通知の方法 |
| 申込みの撤回・解除 | 購入後のキャンセルの可否、可能な場合の期間・手数料、公演の中止・延期のときの払戻し | 「キャンセルできない」と書くなら、その旨を最終確認の画面にも表示する |
| 販売者の情報 | 名称、住所、電話番号、法人の代表者または責任者の氏名 | 個人で主催する場合も、事業として継続するなら表示の対象になり得る |
| 特別な条件 | 年齢制限、同伴者の必要、座席の種類による見え方の違い、学割・優待券種の確認 | 入場時に条件を確認すること、満たさないときの扱いを書く |
事業として継続的に行うかどうかは、販売の頻度や規模などの実態で判断されます。単発の催しでも、同じ内容の表示を置いておくことが紛争の予防になります。
販売を委託する形(プレイガイドや販売サービスを通じて売る場合)では、購入者との契約の当事者が誰なのかが問題になります。主催者が販売の窓口を任せるだけなのか、販売会社が購入者に対して払戻しを行う主体なのか、規約が二層になっているときは、購入者から見て「どの規約が自分に適用されるか」が読み取れる必要があります。払戻しの窓口と期限を、販売会社の規約と主催者の規約で食い違わせないことも要点です。規約が定型約款に当たる場合、契約の内容になるのは、契約の内容とする旨の合意があるか、あらかじめその旨を購入者に表示していたときです(民法548条の2第1項)。購入画面に規約へのリンクと同意の欄を置き、同意の日時と規約の版を記録します。
未成年者が購入する場合は、法定代理人の同意がないと取り消せる契約になります(民法5条2項)。ただし、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産はその目的の範囲内で、目的を定めずに処分を許した財産(おこづかいなど)は自由に処分できます(同条3項)。年齢制限のある公演では、購入時の年齢確認の方法と、年齢を偽った場合は入場を断り払戻しをしないことを書きます。
転売の禁止と本人確認:チケット不正転売禁止法の対象と、規約で決める範囲
チケットの転売については、法律の規制と契約上の禁止を分けて考えます。法律は、特定興行入場券の不正転売を禁止しています(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律3条)。第3条または第4条に違反した者は、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金に処せられ、または併科されます(同法9条1項)。不正転売を目的にチケットを譲り受けることも禁止されています(同法4条)。
そのチケットは「特定興行入場券」か(同法2条3項)
興行(映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能またはスポーツを不特定または多数の者に見せ、聴かせること。日本国内のものに限る)の入場券で、不特定または多数の者に販売されますか。
はい次の問いへ。
いいえ同法の対象外。契約上の定めの問題として扱う。
販売の際、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、券面または購入者の端末の画面に表示していますか。
はい次の問いへ。
いいえ特定興行入場券に当たらない。
興行の特定の日時と場所があり、入場資格者または座席が指定されていますか。
はい次の問いへ。
いいえ特定興行入場券に当たらない。
購入時に、入場資格者の氏名と連絡先(座席が指定されたチケットでは購入者の氏名と連絡先)を確認する措置をとり、その旨を表示していますか。
はい特定興行入場券に当たる。
いいえ特定興行入場券に当たらない。
不正転売とは、興行主の事前の同意なく、業として、販売価格を超える価格で有償譲渡することをいいます(同法2条4項)。興行主等の販売価格以下での譲渡や、業としない譲渡は、同法の罰則の対象ではありません。
この整理から、規約に書く意味が見えてきます。法律の罰則は、販売時の表示と確認措置という要件を満たし、しかも業として販売価格を超える価格で譲渡する場合に限られます。そこで、法律の対象にならない譲渡(販売価格以下の譲渡、友人どうしの譲渡、要件を満たさないチケットの高額転売)も、規約で禁止し、入場や払戻しの効果に結び付けておきます。規約で譲渡を禁止しても、入場する権利(主催者に対する債権)の譲渡そのものが当然に無効になるわけではありません。債権の譲渡を禁止する合意があっても譲渡の効力は妨げられませんが、譲渡制限の合意を知っていたか、重大な過失で知らなかった譲受人に対しては、債務者である主催者は履行を拒むことができます(民法466条2項、3項)。したがって、転売の禁止と本人確認を、購入の手続、券面や画面、公式サイトの三か所で目に付く形にしておくことが、入場を断る根拠を確かなものにします。
興行主等(興行主、または興行主の同意を得てチケットの販売を業とする者)には、不正転売を防ぐための措置(入場者が入場資格者と同一であることの確認など)をとる努力義務と、興行主の同意のもとで譲渡できる機会(公式の譲渡など)を設けるなどの努力義務があります(同法5条1項、2項)。購入者その他の者への正確で適切な情報の提供と相談への対応も、努めなければならないとされています(同法6条2項)。規約に転売を禁止するだけでなく、行けなくなった人が販売価格で譲渡できる公式の方法、名義を変更する方法、払戻しを受ける方法のどれを用意するのかを書くと、禁止の定めに納得しやすくなります。
条文例転売の禁止と本人確認(書き方の例)
- 購入者は、運営の事前の書面又は電磁的方法による同意なく、本チケットを第三者に有償又は無償で譲渡し、又は譲渡の申込みを行ってはなりません。ただし、運営が定める公式の譲渡の方法による場合を除きます。
- 購入者は、本チケットの入場に際して、運営が指定する方法により、購入者又は入場資格者の氏名及び連絡先を確認する措置に応じなければなりません。確認ができないときは、運営は入場をお断りすることができ、この場合において、購入者は払戻しを請求することができません。
- 運営は、前二項に違反し、又は違反するおそれがあると合理的に認める事情があるときは、本チケットを無効とし、入場をお断りし、又は退場を求めることができます。この場合、運営は、チケット代金の払戻しをしません。
- 前項の措置により購入者に生じた損害についての運営の賠償責任は、運営の故意又は重大な過失による場合を除き、購入者が支払ったチケット代金の額を上限とします。
条文例は一般的な書き方の例です。第3項の「払戻しをしない」は、購入者の違反が確認できた場合に限ること、判断の基準と手順を決めておくことが前提です。第4項は、責任を全部免除するのではなく上限を定める形にし、上限を定める文の中に「故意又は重大な過失による場合を除き」を置いています(消費者契約法8条)。
本人確認の設計では、誰の名義にするかが最初の選択です。購入者の名義で入場者を購入者本人に限るのか、同行者を事前に登録できるのか、入場資格者を指定する券種にするのかで、確認の方法も取得する個人情報も変わります。氏名・連絡先を取得するなら、個人情報保護法に従い、利用目的をできる限り特定し(同法17条)、取得したときは速やかに利用目的を本人に通知または公表します(同法21条)。入場時に身分証の提示を求めるなら、提示を求める書類の種類、確認だけで控えは取らないのか、控えを取るなら保管の期間を決めます。本人確認ができなかったときの扱い(入場不可、払戻しの有無)は、あらかじめ規約に書いておかなければ、当日の入口で議論になります。
転売サイトで購入した人への案内も決めておきます。転売で入手したチケットで入場できなかった場合の損害は、購入者の負担とし、主催者が払戻しをしない旨を、公式サイトで周知します。転売サイトへの出品が確認されたときの対応(出品の削除の要請、チケットの無効化、今後の販売の拒否)も、規約に根拠を置いておきます。なお、チケットの転売や転売目的の行為は、地方公共団体の条例で別に規制されている場合があります。このページでは扱いません。
公演の中止・延期・変更と払戻し:場面ごとに範囲を決める
公演が予定どおりに開かれなかったとき、民法の原則は次のとおりです。債務の履行が不能のときは、債権者は履行を請求できず(民法412条の2第1項)、当事者双方に責任がない事由で履行できなくなったときは、債権者は反対給付(代金の支払)を拒むことができます(同法536条1項)。債権者である購入者は、履行が全部不能であれば、催告なしに契約を解除できます(同法542条1項1号)。主催者に責めに帰すべき事由があれば、損害賠償を請求できる場合もあります(同法415条)。ただ、実務では、どの範囲を払い戻し、何を払い戻さないのかを、規約で場面ごとに書いておきます。
| 場面 | 払戻しの考え方 | 規約に書くこと |
|---|---|---|
| 主催者の都合による中止 | チケット代金を払い戻す。手数料まで返すかを決める | 払戻しの対象(券面額、販売手数料、決済手数料)、方法、期限 |
| 天災・感染症・交通機関の停止・行政の要請などによる中止 | 原則は払戻し。既に生じた費用の扱いは、対象を限定して示す | 不可抗力の例示、判断の基準と時刻、告知の方法 |
| 延期・日程の変更 | 振替公演への有効、または払戻しの選択を認める | 選択の期限、無回答のときの扱い、払戻しの手続 |
| 会場の変更・開演時刻の変更 | 大きな変更なら払戻しを認め、軽微な変更は認めない基準を示す | 「軽微」の基準、払戻しを受ける場合の申出期間 |
| 出演者・内容の変更 | 主たる出演者の出演不可などは払戻し事由にするか、しないかを決める | 払戻し事由とする範囲、チケット販売時の告知 |
| 開演後の中断・打切り | 公演の主要部分が実施されたか、で区分する | 再開の見込みの判断、実施の程度に応じた払戻しの割合 |
| 購入者の都合(行けなくなった) | 原則は払戻しなし。公式の譲渡や名義変更の方法を用意する | 取消しを認める時期と手数料、認めない場合の理由 |
不可抗力による中止でも、払戻しの範囲を定めずに「一切責任を負いません」と書くと、払戻しすら拒む趣旨に読まれます。
払戻しの範囲は、券面額に加えて、販売手数料・決済手数料・システム利用料・配送料まで含めるのか、購入者が負担した交通費・宿泊費は含めないのかを書きます。主催者が負う責任を払戻しにとどめ、交通費や宿泊費の補償は含めないとする場合は、その限度を明示します。購入者が消費者のとき、債務不履行による損害賠償責任をすべて免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項1号)。故意または重大な過失による場合の責任を一部免除する条項も無効です(同条1項2号)。故意または重大な過失によらない責任の一部を免除する条項は、条項の中で、重大な過失を除く過失による行為にだけ適用されることを明らかにしていないと無効になります(同条3項)。したがって、「払戻し以外の責任は負いません」とするより、「運営の故意又は重大な過失による場合を除き、払戻しの額を上限とします」と書く方が、条項が生きる形になります。免責条項の組み立ては、事故と免責のページで扱う考え方と同じです。
延期は、払戻しと振替公演のどちらを選ぶかを購入者が選ぶ仕組みにします。選択の期限を設け、期限までに申出がなかったときは、払戻しとみなすのか、振替公演に有効とみなすのかを決めます。無回答を購入者に不利に扱う場合は、通知の方法と回数を厚くしておきます。払戻しの申出に期限を設けること自体は可能ですが、期間が短すぎたり、周知が不十分だったりすると、期限の経過で権利が失われるとする条項の効力が争われます。民法90条や、消費者契約法10条の問題にもなり得ますので、期間の相当性と周知の方法を示しておきます。振替・休講の考え方は振替・休講・中止のページにあるものと共通しています。
天候や感染症などを理由とする中止の判断は、屋外の催しでは特に重要です。開催するかどうかを誰が、いつの時点で、何を基準に決め、どの媒体で告知するのかを規約に書きます。警報などの数値で自動的に中止とする基準を置くと分かりやすい反面、基準に達しない天候での開催判断をどう扱うかを決める必要があります。開演前の中止と、開演後の中断・打切りを分け、公演の主要部分が実施されたときは払戻しをしないが、一部しか実施できなかったときは一部を払い戻す、というように段階を設ける形が一般的です。
出演者の変更は、購入者の期待の中心が出演者にあるか、会場の雰囲気や企画にあるかで重みが変わります。「出演者・曲目・内容の変更を理由とする払戻しはしません」という条項は、一律に有効と言い切れず、消費者契約法10条の問題になり得ます。主たる出演者が出演できなくなったときは払戻しを認める、一部の出演者の変更は認めない、というように、チケット販売時に告知した主たる出演者を基準にすると線を引きやすくなります。
購入者の都合によるキャンセルの設計例
- 発売直後〜直前期の手前取消しを受け付ける。払戻しは手数料を差し引いた額とする、または公式の譲渡の手段を案内する。
- 直前期新たな購入者を見つけるのが難しくなるため、原則として取消しを受け付けない。理由を規約に書く。
- 当日・公演後取消し・払戻しは受け付けない。ただし、主催者に責任のある事由によるときは例外とする。
購入者が消費者のときは、キャンセル(解除)に伴う違約金やキャンセル料を定める条項は、同じ種類の契約の解除で事業者に通常生じる平均的な損害の額を超える部分について無効です(消費者契約法9条1項1号)。一律に「購入後のキャンセルは一切できない」とするなら、座席を再販売できない事情、会場費や出演料が確定していることなど、その理由を説明できるようにしておきます。
入場の拒否・退場・持込み・撮影録音の禁止
チケットを買った人には、主催者に対して入場して鑑賞する権利があります。この権利に例外を設けるのが入場拒否の条項ですので、例外にする事由を規約に具体的に書き、購入の時点で見える状態にしておきます。拒否や退場の根拠にできるのは、基本的に、事前に周知して契約の内容にした事由です。
| 事由 | 例 | 払戻しの扱い |
|---|---|---|
| チケットの効力の問題 | 転売・偽造・複製、二重の使用、本人確認ができないこと | 購入者の事由のため払戻しなし。真正なチケットの購入者が複製の被害を受けたときは別に協議する |
| 安全・秩序の問題 | 酩酊、危険物の所持、他の来場者への迷惑行為、係員の指示に従わないこと | 購入者の事由のため払戻しなし |
| 手荷物の確認 | 確認に同意しないこと | 手荷物の確認を入場の条件として購入時に告知していれば払戻しなし |
| 体調・安全上の理由 | 発熱などの症状、危険な状態での来場 | 主催者の判断で入場を断る場合は、事由に応じて払戻しの扱いを分ける |
| 年齢・同伴の条件 | 年齢制限、同伴者の必要、券種の条件に合わないこと | 条件の確認を入場時に行うこと、満たさないときの扱いを購入時に告知する |
| 過去の違反 | 過去の公演での迷惑行為を理由とする拒否 | 対象の行為、期間、判断の手順を限定して書く |
手荷物の確認は、警察のような強制力を持つものではありません。そこで、入場の条件として、手荷物の確認に同意することを購入時に周知し、同意しない人には入場を断る、という契約上の構成にします。確認の対象(かばんの中身の目視、金属探知)、確認を行う者、拒否したときの扱いを書きます。持込みの禁止は、危険物のほか、ビン・缶、大型の荷物、拡声器、ドローン、録音録画機器、横断幕などを具体的に例示し、会場の規則や消防の規則から決まるものはそれに従う旨を書きます。会場を借りて開く場合は、会場の使用規則が禁止する事項と、規約の内容を合わせます。
撮影・録音の禁止は、公演の権利者と、会場の管理の両方に関わります。実演家は、その実演を録音し、録画する権利を専有します(著作権法91条1項)。個人が家庭内などで私的に使用するための複製は、著作物の利用として一定の範囲で認められますが(同法30条)、会場内での撮影・録音を禁止するかどうかは、契約と施設の管理の問題として別に決めることができます。規約には、公演中の撮影・録音・配信の禁止、禁止の例外(撮影可能な時間帯を設ける場合)、違反したときの措置(機器の使用の中止、データの削除の要請、退場)を書きます。撮影したものをSNSなどに公開する行為は、公衆に見せ、聴かせる行為になりますので、公開した場合の削除の要請と、悪質な場合の法的措置を検討することを書き添える規約もあります。公演の様子を主催者が撮影して広報に使うことがあるときは、来場者が映り込む可能性があることを、客席に掲示し、規約にも書きます(撮影・録画・肖像・配信の同意のページで扱う、段階的な同意の考え方が参考になります)。
障害のある来場者への対応にも注意します。事業者は、事業を行うに当たり、障害を理由として不当な差別的取扱いをしてはならず(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条1項)、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があったときは、実施に伴う負担が過重でない限り、必要かつ合理的な配慮をしなければなりません(同条2項)。介助者の同伴、車椅子の席、補助犬の同伴、座席の配置などは、入場の拒否や持込みの禁止の規定で一律に排除する書き方にせず、申出に応じて個別に協議する旨を書きます。
電子チケット・抽選販売・再発行・規約の変更
電子チケットは、表示のためのスマートフォンの充電切れ、通信の障害、画面の不具合など、特有の事態が起きます。入場の時点で表示できなかった場合の扱い(本人確認のうえ入場させるのか、入場できないのか)、スクリーンショットや画像の提示を有効とするのか、同じチケットが複数の端末で表示された場合に最初に入場した端末だけを有効とするのか、を書きます。紙のチケットは、紛失・盗難・汚損のときの再発行の可否と手数料、再発行したときは元のチケットを無効にすることを書いておきます。
人気の公演で行う抽選販売では、申込みの方法(1人あたりの申込み回数、複数のアカウントの禁止)、当選の通知の方法、当選後の購入手続の期限(期限を過ぎたら当選を取り消す)、不正な申込みが判明したときの当選の取消し、を書きます。ファンクラブの先行販売であれば、会員資格の確認の方法と、会員資格を失ったときの先行販売の権利の扱いも決めます。自動化プログラムによる申込みの禁止も、規約に置きます。
規約を変更する場面もあります。購入済みのチケットがある間は、規約を変更しても、既に成立した契約の内容を一方的に変えられません。規約が定型約款に当たる場合は、その変更の要件(民法548条の4)に従い、購入者の一般の利益に適合する変更か、契約の目的に反せず合理的な変更かを確かめます。公演ごとに条件が違うなら、規約に共通の事項を書き、公演ごとの条件(会場の規則、年齢の制限、撮影の可否)は、販売ページに公演の情報として表示する、という分け方が運用しやすい形です。
チケット規約を決める前に整理すること
- 誰がチケットを売るか。主催者自身か、販売会社に任せるか。購入者との契約の当事者、払戻しの窓口、規約の適用関係が決まります。
- 名義は購入者本人に限るか。同行者を登録できるか。本人確認の方法と、取得する個人情報の範囲が決まります。
- 行けなくなった人のために、公式の譲渡・名義変更・払戻しのどれを用意するか。転売の禁止に納得してもらう前提になります。
- 中止・延期のとき、払い戻す範囲はどこまでか(券面額、手数料、配送料)。場面ごとの払戻しの範囲を表にして示します。
- 天候などで中止にする基準は。誰が、いつ、どこで告知するか。開催の判断を購入者が確認できるようにします。
- 持込みの禁止物、手荷物の確認、撮影・録音の可否は。会場の規則との関係は。会場の規則と規約の内容をそろえます。
チケット規約で起きがちなこと
よくあるご質問
チケットの転売を規約で禁止すれば、転売された人の入場を断れますか。
規約の定めと、その周知が前提になります。債権の譲渡を禁止する合意があっても譲渡の効力は妨げられませんが、禁止の合意を知っていたか、重大な過失で知らなかった譲受人には、債務者である主催者は履行を拒むことができます(民法466条2項、3項)。購入の手続、券面や画面、公式サイトで禁止を表示し、本人確認の方法と違反したときの効果(無効、入場拒否、払戻しなし)まで書いておくことが、入場を断る根拠を確かなものにします。
チケット不正転売禁止法は、どんなチケットが対象ですか。
特定興行入場券です。不特定または多数に販売される興行の入場券で、興行主の同意のない有償譲渡の禁止が明示・表示され、日時・場所と入場資格者または座席が指定され、購入時に氏名と連絡先を確認する措置をとり、その旨が表示されているものをいいます(同法2条3項)。禁止されるのは、業として、販売価格を超える価格で、興行主の事前の同意なく有償譲渡することです(同条4項、3条)。販売価格以下の譲渡や、業としない譲渡は、同法の罰則の対象ではなく、規約の問題になります。
公演が中止になったとき、手数料や交通費も払い戻す必要がありますか。
法律が一律に定めているわけではなく、規約で場面ごとに決めます。券面額に加えて、販売手数料や決済手数料まで払い戻すかを書きます。交通費や宿泊費の補償を含めないとする場合も、「一切責任を負わない」と書くのではなく、故意または重大な過失による場合を除いて払戻しの額を上限とする、というように書く方が、消費者契約法8条の関係で条項が生きる形になります。
「購入後のキャンセルは一切できません」と書いてあれば、直前でも当日でも返金しなくてよいですか。
購入者が消費者のときは、解除に伴う違約金等の額が平均的な損害を超える部分は無効になります(消費者契約法9条1項1号)。座席の再販売ができない時期や、会場費・出演料が確定している事情を説明できるように、取消しを認める時期と手数料を段階で設ける形が、説明しやすくなります。特定商取引法の表示の中で、キャンセルの可否を示すことも必要です。
手荷物検査を断った人の入場を拒否できますか。
手荷物の確認は強制力を持つものではないため、入場の条件として購入時に周知し、同意しない人には入場を断る、という契約上の構成にします。確認の対象と方法、拒否したときの扱いを規約に書き、会場の規則と内容を合わせておきます。
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