このページの要点
- 共通のルールは基本契約、日時・場所・人数・形式は個別契約。優先関係は一つの条に集める。
- 準委任・独立した事業者・指揮命令をしない旨を、現場の実態と一致させる。「講師派遣」の呼び名と労働者派遣は別。
- 人数連動の料金は、実参加人数の定義、報告期限、報告がないときの予定人数でのみなしまで書く。支払期日は実施日から数える。
- 相手方の都合の中止と不可抗力を切り分け、場所と参加者の管理(相手方)と、内容の安全配慮(受託者)を分担する。
結論:外で教える受注は「基本契約+個別契約」で組み、人数・中止・安全の三つを先に決める
教室や講師養成団体は、自分の教室の外でも教えます。企業が運営する店舗で親子向けの講座を開く、学校の行事に外部の講師や体験プログラムを入れる、施設のイベントでワークショップを担当する、といった受注です。このとき教室は講師を派遣する側(受託者)で、相手方(企業・学校・施設)が発注者になります。教室が講師に仕事を頼む契約(講師・出演者・スタッフとの業務委託)とは、立場が逆です。受注者の側から見て最初に決めるべきことは、次の五つです。
第一に、継続的に何度も依頼を受けるなら、共通のルールを書く基本契約と、回ごとの日時・場所・人数・形式を書く個別契約を分けること。第二に、教室と相手方は独立した事業者で、相手方は講師に指揮命令をしない、という契約の形(準委任)と実態を一致させること。第三に、報酬を、1回の定額にするのか、参加人数に連動させるのかを決め、人数の報告がないときの扱いまで書くこと。第四に、相手方の都合による中止や休校と、天災などの不可抗力を切り分けること。第五に、参加者の安全の管理を、場所と参加者の管理(相手方)と、内容の指導上の安全配慮(教室)で分担することです。
このページは、受注者の側から契約書を見直す場面を想定しています。素材にしたのは、講師養成団体が企業の店舗に講師を派遣する講師派遣業務委託契約書(初版と修正版)と、学校向けの1日限りのプログラムを受託する業務委託契約書のレビュー(報告書、修正箇所対照表、修正版2種、修正版の説明)です。後者は、相手方の学校が読みやすい簡潔な契約書にしたいという意向を受けて、全28条の修正版を全13条に再構成したもので、何を残し、何をまとめ、何を削ったかの判断が、受託側の契約書の優先順位を示しています。雇用か委託かの判断そのものや、労働社会保険の手続は扱わず、契約書の書き方の範囲にとどめます。
基本契約と個別契約:決める事項と、優先関係を一つにそろえる
講師派遣の基本契約は、目的、基本的な条件、履行の方法、責任の分担を包括的に定め、日時・場所・回数・参加人数・実施形式といった具体的な事項を、個別契約で定めます。個別契約は、契約書だけでなく、発注書、提案書、見積書、スケジュール表、電子メールによる合意も含めることができます。ただし、その場合も、契約条件として確定させる事項は、双方が合意した範囲に限ると書いておかないと、メールのやり取りの一言一句が契約条件だったと主張されるおそれがあります。
| 事項 | 基本契約に置くこと | 個別契約(回ごと)に置くこと |
|---|---|---|
| 業務の内容 | 講座の企画・実施、準備・設営・片付け、集客の補助など、受ける業務の種類。医療行為でなく、効果を保証しない旨。 | 講座の名称、時間、形式(セミナー形式か体験形式か)、使う教材。 |
| 日時・場所・人数 | — | 実施日時、場所、回数、参加予定人数、参加の対象者。中止・縮小の基準日になる実施日はここで確定させる。 |
| 報酬 | 報酬の決め方(定額か人数連動か)、交通費の含み方、請求と支払の手順、遅延損害金。 | その回の報酬額(単価)、宿泊を要する場合の宿泊費の負担。個別契約に定めがないときの標準額を基本契約に置く例もある。 |
| 中止・変更 | 相手方の都合の中止、不可抗力、段階的なキャンセル料の考え方。 | その回の基準日、準備の状況に応じた特約。 |
| 安全・保険 | 安全管理の分担、事故の通知と協力、賠償責任保険の加入。 | 会場の特性に応じた注意事項、参加者の年齢に応じた体制。 |
ここで落とし穴になるのが、優先関係です。基本契約の目的条項に「個別契約に優先して適用される」と書きながら、別の条に「個別契約が基本契約と抵触するときは個別契約が優先する」と書いてあると、どちらが優先するのかがわからなくなります。基本契約と個別契約は、どちらかを優先する旨を一つの条に集めて書き、個別契約でも書き換えられない事項(安全、知的財産、個人情報、反社会的勢力の排除など)があるなら、その事項を明記します。
学校を相手とする1日限りの契約では、長期取引用の一般条項を全部入れると、読む側の負担が重くなり、契約の締結が進みません。レビュー報告書は、定義条項、条項の配列、一般条項の整備など、体系的な不備の指摘から始め、全28条の修正版を作りました。依頼者の「学校側にもご負担なく確認できる簡潔な契約書に」という意向を受けて、事務所は条項を三つに仕分けて13条に再構成しました。
| 仕分け | 対象の条項 | 理由 |
|---|---|---|
| 内容を維持 | 段階的なキャンセル料と基準日、不可抗力による中止の精算、知的財産権、責任上限 | 受託者の金銭と権利に直接関わる。簡潔化しても、形を変えて確実に残す。 |
| 統合 | 秘密保持と個人情報、解除と反社会的勢力の排除、契約期間と存続、協議・準拠法・管轄 | 性質が近く、まとめても意味が変わらない。 |
| 削除 | 遅延損害金、無催告解除・期限の利益喪失、権利の不放棄・分離可能性・完全合意、通知(到達みなし) | 1日限りの契約では発動の可能性が低く、発動しなくても実害が小さい。削除しても、民法上の定めによる請求や解除が残る。 |
ご相談と回答 簡潔な契約書にしたいというご要望について
遅延損害金の条は削除してよいか。
削除できます。金銭の支払の遅れについては、約定の利率がなければ法定利率による損害賠償を請求できます(民法419条1項)。法定利率は民法404条が3年ごとに見直す変動制です。権利が消えるわけではないことを説明したうえで、条を削除しました。
キャンセル料が損害賠償額の予定だという書き方を外してもよいか。
民法420条1項は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定できると定めており、違約金は賠償額の予定と推定されます(同条3項)。明示を外しても、条項全体の趣旨から同様に解される可能性はありますが、明示したほうが予定であることは明確になります。簡潔さを優先するか、明示を残すかは、相手方の受け止めを見て依頼者が判断する事項として整理しました。
受託者の性質と講師の扱い:準委任、指揮命令、選定・品質管理、再委託
講師派遣業務委託契約書は、契約の形を民法の準委任(民法643条、656条)とし、教室と相手方は独立した事業者として履行する、雇用関係・代理関係・組合関係などは生じない、と定めるのが通例です。講座の実施そのものを請け負う形でも、結果の完成を約束するのではなく、事務の遂行を引き受ける準委任として書く例があり、これは、参加者の満足や成果を保証しない内容ともなじみます。準委任では、各当事者がいつでも契約を解除でき、相手方に不利な時期に解除した場合などには損害賠償が必要になります(民法651条)。基本契約の中途解約と、成立済みの個別契約の扱い(解約しても成立済みの個別契約は従前の定めによる)を分けて書く理由もここにあります。
契約書には、相手方が、教室や教室の選んだ講師に対し、業務の遂行方法、手段、時間配分について、直接または間接を問わず指揮命令を行わない、と書きます。講師の選定、配置、管理は教室の責任で行うと書き、そのための講師の要件(必要な知識、技能、経験を有すること)、教育・研修、業務遂行状況の管理と改善の措置を教室の責任として並べます。再委託は、教室の責任で認め、再委託先の行為は自己の行為として責任を負うと書きます。学校向けの受託契約では、派遣する外部の人員の募集、選定、指導、当日の運営管理を受託者が自己の責任で行い、これらに関する報酬、交通費、宿泊費その他の費用を受託者が負担する、と書き、予備の人員は配置してもよいが義務ではない、と定めています。
「講師派遣」という呼び名には注意が必要です。労働者派遣は、自己の雇用する労働者を、その雇用関係の下に、かつ他人の指揮命令を受けて、その他人のために労働に従事させることをいいます(労働者派遣法2条1号)。契約書の題名が講師派遣であっても、相手方が講師に指揮命令をしない、教室が業務の遂行体制を自ら構築する、という内容と実態が一致していることが重要です。現場での確認や安全のための連絡は避けられませんが、業務の遂行方法を相手方が細かく指示する運用になっているなら、契約書の文言とのずれを見直す必要があります。許可の手続や雇用管理の解説は、このサイトでは扱いません。
相手方がフリーランス法や取適法の対象になるかどうかも、契約書の書き方に関わります。フリーランス法の特定受託事業者は、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人をいいます(同法2条1項)。業務委託は、事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託することです(同条3項2号)。教室が一人で、またはそのような法人として受注するなら、発注者には、給付の内容、報酬の額、支払期日などの書面または電磁的方法による明示の義務(同法3条)があります。さらに、発注者が従業員を使用する個人、または役員が二以上いるか従業員を使用する法人(特定業務委託事業者。同法2条6項)であれば、受領した日(役務の提供の場合は役務の提供を受けた日)から60日以内で、かつできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定める義務(同法4条1項)も負います。教室が従業員を使用している場合は、特定受託事業者に当たりません。一方、取適法の役務提供委託は、委託事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部または一部を他の事業者に委託することで(同法2条4項)、委託者が自分の社内で使う役務(たとえば自社の従業員向けの研修)を外部に頼む場合は、この定義に入りません。委託事業者と中小受託事業者の要件は、資本金の額や常時使用する従業員の数で区分されています(同条8項・9項)。どの法律が使えるかは、教室の人数と、発注者の規模、委託の中身で決まります。
報酬と、参加人数に連動する料金
講師派遣の報酬は、1回あたりの定額にするか、参加人数に連動させるか、あるいはその組み合わせです。それぞれ、契約書で詰めるべき点が違います。
| 型 | 契約書の書き方 | 詰める点 |
|---|---|---|
| 1回あたりの定額 | 個別契約で定める報酬、定めがないときの標準額。通常要する交通費は報酬に含み、通常の範囲を超える交通費は協議、宿泊を要するときの宿泊費は発注者の負担とする例がある。 | 実施場所や移動距離で通常の範囲を超えるとき、誰がいくら負担するか。準備や打合せの時間を含むか。税込か税別かを明記する。 |
| 参加人数に連動 | 実際に参加した人数に単価を乗じ、税込か税別かを明記する。一部のみ参加した人も1名として算定する。 | 実参加人数の定義、報告の期日、報告がないときの扱い、個々の欠席の扱い。 |
| 定額と人数連動の組み合わせ | 最低額と、一定人数を超えた分の単価を定める。 | 最低額の対象となる業務の範囲と、人数が少ないときの中止の扱いの連動。 |
条文例人数連動の委託料(学校向けプログラムの受託契約から)
- 委託料は、本プログラムに実際に参加した生徒(実参加生徒)1名につき単価(税別)を乗じた金額に、税を加算した金額とします。本プログラムの一部のみに参加した生徒も、1名として算定します。
- 甲は、本契約の締結時に、本プログラムへの参加を予定する生徒の数(参加予定生徒数)を書面又は電子メールにより乙に通知し、定めた期日までに、実参加生徒の数を報告します。甲が当該期日までに報告を行わないときは、乙は、参加予定生徒数を実参加生徒の数とみなして委託料を請求することができます。
- 個々の生徒が疾病その他の個別の事情により実施日に欠席し、又は参加しなかった場合、当該生徒について委託料は発生せず、中止又は規模の縮小には該当しません。
人数連動の契約では、参加予定生徒数の記入欄を空欄のままにしないこと、実施日を確定させてから締結することが前提です。実施日は中止の基準日の起算日であり、報告期限と支払期日との整合も必要になるため、締結前に確定記入します。
人数の報告がないときの穴は、受注者の側で見落とされやすい論点です。報告が来なければ、請求の金額が決まりません。予定人数でみなして請求できるという定めを置けば、請求の根拠がはっきりします。一方、個々の生徒の欠席まで中止や縮小に当たるとすると、段階的なキャンセル料の対象が広がりすぎるため、個々の欠席は人数に反映するだけで中止や縮小とはしない、と切り分けます。学年やクラス単位で参加を取りやめる場合は、規模の縮小として、減る人数分についてキャンセル料の対象にします。
支払の条件も、受注者の側から確認します。支払を、請求書の受領後の月末に定める例がありますが、請求書の発行が遅れると、実施日から60日を超えるおそれがあります。フリーランス法4条や取適法3条が適用される場合は、役務の提供を受けた日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に支払期日を定める必要があり、これに反して定めたときは、法律上の支払期日が置き換わります(フリーランス法4条2項、取適法3条2項)。請求書の締めと、実施日から数えた支払期日を、契約書で整合させておきます。振込手数料の負担も明記します。
中止・休校・規模の縮小:相手方の都合と不可抗力を切り分ける
出張講座の契約で最もトラブルになるのは、中止です。受託者は、講師を確保し、教材を準備し、日程を空けています。相手方の都合で中止になれば、その費用を誰が負担するかが問題になります。契約書は、中止の原因を三つに分けて書きます。
中止の原因の切り分け
中止の原因が、相手方の内部の事情や判断によるものか(学級閉鎖、学校行事の重複、教職員の都合、店舗の都合など)
はい相手方の都合による中止として、段階的なキャンセル料を支払う。基準日は、受託者が中止の通知を受領した日とする。
いいえSTEP2へ。
中止の原因が、天災、感染症の流行、火災、停電、交通機関の大規模な運休、行政機関の指示または命令など、双方の責めに帰することのできない外部的な事由か
はい不可抗力として、まず延期や実施内容の変更を協議する。延期が整わず中止になったときは、準備業務の対価と、取消し・返金を受けられない交通費・宿泊費の一部を発注者が負担する。
いいえSTEP3へ。
中止の原因が、受託者の側(講師の急病、受託者の都合)にあるか
はい代替者の手配、内容の変更で対応する。実施できないときの責任は、受託者の債務不履行の問題になり、キャンセル料は発生しない。
いいえ個別の事情で判断する。
「学校の休校」を不可抗力の例に無限定で列挙すると、本来は相手方の都合として扱うべき中止が、低額の不可抗力の条項に流れ込みます。不可抗力は外部的な事由に限り、学校内部の事情や自校の判断による中止は、相手方の都合の条項に切り分けます。
相手方の都合による中止の段階的なキャンセル料(学校向けプログラムの受託契約から)
- 実施日の30日前までの中止基準額の25%(基準額は、参加予定人数に単価を乗じ、税込か税別かを明記した額)
- 実施日の29日前から7日前までの中止基準額の50%
- 実施日の6日前以降の中止基準額の100%
- 学年・クラス単位の取りやめ、規模の縮小減少する人数に単価を乗じた額に、同じ割合を乗じる。基準日は、変更の通知を受領した日
割合は個別の契約ごとに協議して決める事項で、上は一つの例です。キャンセル料は、中止または縮小の決定時までに受託者が負担する準備費用に相当するものとして位置づけ、これを支払えば、中止または縮小について、ほかに支払義務を負わないと書きました。
不可抗力による中止の精算も、あらかじめ書いておきます。学校向けの受託契約は、延期や代替対応が整わず中止する場合に、中止の決定時までの準備業務(企画、人員の募集・選定・研修、教材・実施資料の作成)の対価として、基準額の一定割合を発注者が支払い、さらに、取消し・返金を受けられない交通費・宿泊費のうち一定割合を発注者が負担する(残りは受託者の負担)、そして、発注者の負担の合計は基準額を上限とする、と定めました。延期後にまた中止になるときは、準備業務の対価は1回に限り発生するものとし、基準額は、別の合意がない限り契約締結時の予定人数を基礎にする、という整理も入れています。さらに、人員が予定どおりに集まらないことについても、「振替日に当初の人数の人員を配置できない場合があるが、それのみをもって債務不履行とならない」と置き、延期後の実施条件を協議で決めるようにしています。
契約を中止の場面で組み立てるときに頼れる民法の規定は、いくつかあります。当事者双方の責めに帰することができない事由で債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができますが(民法536条1項)、債権者の責めに帰すべき事由によって履行できなくなったときは、反対給付の履行を拒むことができません(同条2項)。相手方の都合による中止は、後者に近い場面です。しかし、契約書に何も書かなければ、どちらに当たるかを争うことになるため、中止の原因ごとの精算を書いておく価値があります。なお、相手方が取適法やフリーランス法の対象となる事業者であれば、受託者の責めに帰すべき理由がないのに、給付の内容を変更させ、またはやり直させて受託者の利益を不当に害することが禁じられており(取適法5条2項3号、フリーランス法5条2項2号。後者は政令で定める期間以上の業務委託に限られます)、中止や変更に伴う費用負担を一方的に受託者に負わせる運用は、この観点からも見られます。
これに対し、講師派遣業務委託契約書の中には、当事者のどちらの都合で中止・解約・日程変更をしても、キャンセル料その他の費用は発生しない、と定めたものもありました。講師の側にも都合があるとき柔軟に動ける利点はありますが、準備費用や講師の確保にかけた費用を回収する手段がなく、受託者に不利な定めです。キャンセル料を置かないなら、それで受託者が許容できる範囲かを確認し、置くなら、実施日の何日前からか、基準日はいつかを決めます。
参加者の安全・事故・保険・クレーム:場所の管理と内容の安全を分ける
出張講座では、参加者は発注者の顧客や生徒であり、受託者は参加者と直接の契約を結んでいないことがほとんどです。このため、事故が起きたとき、誰が何を負担するかを、発注者と受託者の間で書いておく必要があります。講師派遣業務委託契約書の例は、実施場所の施設・設備・備品の安全性の確保と、参加者の誘導、監督などの管理を発注者の責任とし、講座の内容、実施方法、指導に関する安全配慮を、受託者がその専門的知見に基づいて、通常求められる注意義務をもって行う、と分担していました。さらに、参加者に対する事前の説明(内容、参加に伴う注意事項、危険性、安全確保に関する事項)と同意の取得を発注者が行い、同意の記録を保管する、と書き、参加者の参加は自由意思と自己の判断によるとしていました。
学校向けの受託契約は、安全管理を、学校が適切な人数の教職員を配置して生徒の監督、安全管理、体調不良・事故への対応を行い、受託者は必要な範囲で協力する、と定めました。この分担を書いておくと、複数の受託者の人員が来る行事でも、生徒の監督の責任が曖昧になりません。内容の面では、教育・指導のサービスであり、特定の効果や成果を保証しないこと、医療行為などの法令で規制される行為に当たらないことを、受託者の側から明記しておきます。
賠償の条項は、双方向に整えるのが原則です。直接かつ通常の損害に限り賠償し、逸失利益や間接損害は双方とも責任を負わないものとし、受託者の賠償責任の総額に上限(委託料総額)を置きます。その「委託料総額」を、実施された場合は実際に発生した委託料、中止された場合はキャンセル料や不可抗力時の負担額と定義しておかないと、上限の額が不明になります。故意または重大な過失による場合を上限から除くことも、あわせて書きます。保険は、生徒の事故は発注者(学校)の側で備え、受託者が配置する人員に関しては受託者が備える、と付保の主体を書き、第三者から請求があったときの対応と費用の負担は、責めに帰すべき当事者が負担する、と整理しました。クレームは発注者が一次窓口となり、受託者に報告して協議する、と書く例もあります。
注意したいのは、発注者と受託者の間の免責や責任分担の条項は、参加者との関係では直接の効力を持たないことです。参加者は、故意または過失によって権利を侵害した者に対し、不法行為による損害賠償を請求できます(民法709条)。参加者が消費者である場合に、参加者と発注者との間の約款が責任の全部を免除する形になっていると、その条項は消費者契約法8条の問題になります。受託者は、発注者との契約で、賠償を請求された場合の対応や求償の分担を決めておくとともに、自分の賠償責任保険の加入と補償の内容を確認します。宿泊を伴う行事や長時間の行事では、業務の範囲、拘束時間、業務の時間外に生じた事故の扱いを、個別契約に具体的に書いておくと、後の食い違いを防げます。宿泊や送迎を含む行事では、旅行業法の確認も必要です(イベント・合宿・留学プログラムと旅行業法)。子どもが参加する講座で、保護者との関係をどう組むかは未成年・保護者・家族受講と健康の申告で扱います。参加者の事故と免責の考え方は事故と免責で扱います。
ヒヤリングで確かめること 出張講座の受託契約のために
- 発注者は誰ですか。企業、学校、施設のいずれで、個人事業か法人か、従業員数はどのくらいですか。フリーランス法や取適法の対象になるかを見る出発点です。
- 1回ごとの報酬ですか、参加人数に連動しますか。人数は誰が、いつまでに報告しますか。報告のない場合の請求の根拠を決めます。
- 相手方の都合で中止になる場合には何がありますか。学級閉鎖、行事の重複、店舗の都合など、起きやすいものは。不可抗力と相手方の都合の切り分けを決めます。
- 会場と参加者の管理は誰が行いますか。保護者や子どもが参加するなら、見守りは誰の担当ですか。安全管理の分担を決めます。
- 講座の内容は、受託者の教材やノウハウですか。録音・録画や教材の再利用を許しますか。知的財産と録音録画の条項を決めます。
- 講師は教室の従業員ですか、業務委託の講師ですか。再委託をしますか。選定・管理の責任と再委託の書き方を決めます。
教材・録音録画・ブランド・個人情報・秘密保持
受託者の財産は、講座の内容、教材、ノウハウ、名称です。出張講座では、これらが発注者の現場で、発注者の従業員や参加者の目に触れるため、契約書で守り方を決めておきます。講師派遣業務委託契約書の例は、受託者が提供する教材、資料、プログラム、講座内容、構成、ノウハウ、標章などの知的財産権(著作権法27条・28条の権利を含む)は受託者に帰属し、契約の締結や業務の実施は権利の譲渡も利用許諾も意味しない、と書いていました。発注者は、受託者の書面による承諾なく、複製、録音、録画、改変、公衆送信、第三者への開示、SNSなどへの掲載をしてはならず、受託者の成果物を利用して、同じまたは類似のサービスを提供してはならない、とします。広報で一部を使うときは、事前に書面による承諾を得る、と整えています。
録音や録画は、禁止だけでなく、禁止を現場で守らせる措置まで書くのが実効的です。発注者は、参加者その他関係者にこの定めを周知し、必要な措置を講ずる、と書いておくと、現場で参加者が撮影を始めたときの対応の根拠になります。受託者の名称やロゴなどのブランドについても、広告、宣伝などへの使用を事前の書面による承諾にかからしめ、承諾した場合でも、承諾の範囲と条件に従い、ブランドの信用を毀損する態様で使わない、と書きます。学校向けの受託契約では、受託者または正当な権利者が作成・提供する教材、ワークショップ資料、レッスンプランの知的財産権を受託者に帰属させ、発注者が受託者の承諾なく複製、第三者への提供、公開、本プログラム以外の目的での使用をしてはならない、と短く書いています。
個人情報と秘密保持は、一つの条にまとめても意味が変わらない例です。取り扱う個人情報(参加者の名簿、子どもの氏名、健康に関する申告など)は、法令を守って管理し、本業務の目的の範囲でだけ利用し、契約の終了時に相手方の指示に従って返還または消去します。再委託先や派遣する人員に開示するときは、同等の義務を負わせ、その履行について責任を負う、と書きます。子どもの写真や氏名の取扱いは撮影・肖像・配信の同意と同じ考え方を、契約書の側でも反映させます。
起きがちなこと
よくあるご質問
出張講座の契約は、基本契約と個別契約に分けたほうがよいですか?
継続して何度も依頼を受けるなら、分けるのが実務的です。基本契約で責任分担、知的財産、個人情報、反社会的勢力の排除などの共通ルールを定め、個別契約で日時・場所・回数・人数・形式を定めます。そのうえで、どちらが優先するのかを一つの条に集めて書き、発注書やメールを個別契約として扱う範囲を、合意された範囲に限定します。1回限りの依頼なら、簡潔な1本の契約書で足りる場合もあります。
参加人数に連動する報酬では、何を書いておくべきですか?
実際に参加した人数の定義(一部のみの参加を1名とするかなど)、予定人数の記入、実参加人数を報告する期日、報告がないときに予定人数でみなして請求できる旨、個々の欠席は中止や縮小に当たらない旨、税込か税別かの明記が基本です。実施日が確定していないと、中止の基準日や報告期限が決まらないので、締結前に実施日と予定人数を記入します。
相手方の学校が休校になった場合は、不可抗力ですか?
契約書の書き方によります。学級閉鎖や学校行事の重複、教職員の都合といった相手方の内部の事情や判断による中止は、相手方の都合による中止として扱い、天災や行政機関の指示のような外部的な事由と切り分けて書くのが安全です。不可抗力の例に休校を無限定で入れると、相手方の都合であるべき中止が低額の精算に流れるおそれがあります。
契約書に「講師派遣」とあれば、労働者派遣になりますか?
契約書の題名だけでは決まりません。労働者派遣は、自己の雇用する労働者を、その雇用関係の下に、かつ他人の指揮命令を受けて、その他人のために労働に従事させることをいいます(労働者派遣法2条1号)。契約書に、教室と相手方は独立した事業者で、相手方は講師に指揮命令をしないと書くだけでなく、現場の運用がその内容と一致しているかを確認する必要があります。
出張講座の事故は、誰の責任になりますか?
契約書で、場所と参加者の管理(発注者)と、講座の内容と指導上の安全配慮(受託者)に分担を分けて書くのが基本です。ただし、発注者と受託者の間の免責や分担の条項は、参加者との関係で直接の効力を持ちません。参加者は不法行為による損害賠償を請求できる場合があるため(民法709条)、賠償責任保険の加入と、求償の分担を決めておきます。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。法令の運用や行政の解釈は、改正や個別の事情によって変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた教室の会員規約・受講規約・受講契約書・入会申込書、語学教室の概要書面・契約書面、ワークショップ・海外プログラム・大会の参加規約、講師・スタッフとの業務委託契約書、スタジオの利用規約・利用契約書、予約プラットフォームの規約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 観光庁