月謝・会費・入会金・チケットの返金設計

「理由の如何を問わず返金しません」は、生徒の都合と教室の都合を区別していません。返金の規定は場面を分けて書きます。

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教室の都合で休講した分まで返さない、と読める条項は、消費者契約法で無効とされるおそれが高くなります。

このページの要点

  • 返金の場面を利用者の都合と事業者の側の事情に分け、月額料金は何の対価かを条文に書く。
  • 滞納の遅延損害金は年14.6%を超える部分が無効。退会の締日と引落しの関係は、すべての書類で同じ表現にする。
  • チケットは未使用分の上限と有効期限で、特定継続・前払式支払手段・特定権利の三つの境界を確かめる。
  • 料金の改定は、理由の例示、事前の通知、次の更新日からの適用、同意しない人の解約を組にして置く。

結論:「返金しない」は場面ごとに分け、月額は何の対価かを書き、チケットは三つの境界で設計する

習い事の教室と会員制のサービスで最も多い争いは、お金を返すかどうかです。規約に「一度納めた入会金・月謝は、理由の如何を問わず返金しません」と書いておけば守れる、と考えられがちですが、この一文は、生徒の都合でやめた場合と、教室の都合でレッスンができなかった場合を区別していません。教室の側の事情で提供できなかった分まで返さない、と読める条項は、消費者契約法のもとで効力を否定される可能性が高まります。

守れる返金の規定にするには、返金の場面を「生徒・利用者の都合」と「教室・事業者の側の事情」に分け、返さない部分には理由(何の対価か)を条文に書き、返す部分は計算の式で決めておくことです。回数券・レッスンチケットは、特定継続的役務提供、資金決済法の前払式支払手段、特定商取引法の特定権利という三つの境界を意識して、未使用分の上限と有効期限を決めます。このページでは、オンラインの日本語レッスン、ダンス・体操のスタジオ、着付け教室、ボイストレーニングのスタジオ、会員制のサービスの書類から、具体的な設計を整理します。法定の書面がある語学教室の中途解約の上限は語学教室の法定書面・クーリング・オフ・中途解約で扱います。

返金の場面を二つに分ける:利用者の都合と事業者の側の事情

オンラインの日本語レッスンの案件で依頼者が用意した規約のドラフトには、講師の病気や廃業など事業者の側の事情でレッスンができなかった場合も返金しない、と読める項がありました。事務所の報告書では、返金の場面を利用者の都合と事業者の側の事由に分けるよう指摘しました。

利用者がすぐにやめた場合に未提供分を返さない定めは、解除に伴う違約金と評価されることがあり、同じ種類の契約が解除されたときに事業者に生ずべき平均的な損害の額を上回る部分は、消費者契約法9条1項1号により無効です。事業者の側の事由で提供できなかった分まで返さない条項は、反対給付の履行を拒めるという原則(民法536条1項)、債務不履行による解除と原状回復(同法542条・545条)、履行の割合に応じた報酬(同法648条3項1号)といった民法の定めを排除するもので、消費者の利益を一方的に害する条項として無効とされるおそれが高い(消費者契約法10条)、という整理です。そのとき使われていた規約は未消化分を返金する内容だったため、ドラフトの形に変えれば利用者に不利な変更にもなる、という点もあわせて指摘しました。

修正版では、月額の料金について、返さない理由を条文に書きました。月額料金は、契約期間を単位としてレッスンの枠を確保し、オンライン教材の閲覧などを提供することの対価なので、その契約期間の料金は返金しない、という書き方です。ご説明書の運用上の注意では、解除を主張された場合に備えて、枠を確保していることや、空いた枠を他の受講者に回しにくいことの記録を残すよう勧めました。違約金の算定根拠の概要を説明する努力義務(同法9条2項)に準じて、説明できる材料を手元に置いておく趣旨です。

アスリート向けの英語コーチングの月額のグループプログラムの条も、同じ考え方で組み立てていました。開始した月の分は返さず、日割りの精算もしない、としたうえで、提供者の責めによる場合は除く、と例外を同じ条の中に置いています。月の途中でやめても返さないことと、それでも返す場面とが一つの条で読めるため、利用者から問われたときも条文をそのまま示して説明できます。返金しない場面を、事業者の側に落ち度がない場面に限って書く、という同じ考え方です。

返金する場面の列挙(オンラインレッスンの規約の例)
場面返金の扱い
事業者の側の事由でレッスンができず、振替もできなかった回未提供分相当額を返金
3日以上、サービスの全部が止まった場合未提供分相当額を返金
サービスの終了・事業の譲渡に同意せず解除した場合未提供分相当額を返金
二重決済・契約終了後の決済受け取った額を返金

未提供分相当額は、日割りで計算した額と未受講の回数分の額の多い方に、振替・繰越の残りを加えた額を基本とし、利用者の側の事由による解除の場面では少ない方を使う、と使い分けを決めています。返金は事由の発生から10営業日以内、手数料は事業者の負担、同じ事由で二重に返金しないことも定めました。

入会金・事務手数料・前納・滞納の書き方

月謝制の教室では、入会の時に入会金・事務手数料・最初の月謝をまとめて受け取ることが多く、その返金と、毎月の引落し、支払が遅れたときの扱いを規約に書きます。ダンス・体操のスタジオの会員規約の改訂では、お金の条を次のように変えました。

事務所の改訂例 スタジオの会員規約(お金の条)

滞納

改訂前遅延損害金を年14.6%と定める。(当初の案)
改訂後遅延損害金の定めを削り、未納分は全額を請求すると定める。

理由消費者との契約では、支払が遅れたときの賠償額の予定や違約金は、年14.6%の割合で計算した額を上回る部分の効力が否定されます(消費者契約法9条1項2号)。改訂では遅延損害金の定めそのものを置かず、未納分の請求に絞りました。

コース

改訂前月謝の受け放題(年間)のコースを置く。
改訂後受け放題のコースを削除。

理由年間の受け放題のように前払いの期間が長いコースは、途中でやめたときの精算が大きな争いになりやすい形です。

同じ改訂では、家族で入会する場合に入会金を半額にすること、初回の口座振替が翌々月からになるため入会時に月謝2か月分を前納してもらうことも定めています(入会手続の全体は書類一式と契約の成立)。

着付け教室の入会申込兼受講契約書では、受講料は1回ごとに当日現金で、国家検定の講習は振込で受け取ると定め、入会金・再入会金・年額の運営管理費・月額の休会費を表で列挙しました。1回ごとの支払いにすると、前払いの精算の問題がそもそも生じにくくなります。英会話教室の受講規約のように月謝袋で現金を受け取る教室では、受け取った月と金額を双方が確かめられる記録(袋への受領の記入など)を残しておくと、後の精算や退会の時の確認で役立ちます。年額の運営管理費のように期間でかかる費用は、何の対価かと、途中で退会した場合の扱いを表の注に書いておくと、後から説明しやすくなります。

着付け教室の入会申込兼受講契約書は、返金について「法令上返金義務がある場合を除き」と断ったうえで、理由の如何を問わず返金しないと定めていました。法令上の義務を除く一文があれば全体が無効になることは避けやすくなりますが、どの場面が「法令上返金義務がある場合」なのかは書かれていないため、生徒にも教室にも、返すべき場面が条文からは分かりません。教室の都合による休講、教室の閉鎖、二重払いなど、返す場面を具体的に並べておくほうが、運用の場面で迷いません。

会員制の時間貸しの音楽スタジオの利用規約では、時間単位の利用料金、定額の使い放題プラン、ロッカーなどの付帯サービスの月額を、別々の料金として定めていました。基本のプランと付帯サービスを分けておくと、付帯サービスだけをやめる場合や、ロッカーの空きがなくなった場合の精算を、それぞれの料金の単位で処理できます。

外国の事業者が日本の消費者に提供するオンラインの音楽講座の案件では、決済の完了後は、受講開始の前でも全額を返さない、という規定が問題になりました。事務所の報告書は、入学金と授業料の返還に関する最高裁判決(最判平成18年11月27日)の枠組みから、受講開始の前は事業者に平均的な損害が生じにくく、消費者契約法9条1項1号に触れるおそれが大きい、と報告書で指摘しています。講座を段階に分け、開始済みの段階だけを返さないとする中途解約の設計のほうが、相対的に合理的です。入会金についても、入会の手続や会員としての地位の対価であることを書かずに金額だけを並べると、実質は前払いの授業料ではないかと争われる余地が残ります。

退会の締日と口座振替のずれ、月の途中でやめた月謝

月謝制の教室では、退会の届出の締日と、口座振替の引落しの日の関係を、規約・入会案内・重要事項説明書で同じ言葉で書くことが大切です。締日を過ぎた届出で翌月分の引落しが止められず、生徒は「もうやめたのに引き落とされた」と感じます。規約には、締日を過ぎた届出をどの月の退会として扱うか、その間の月謝が発生するか、手続上止められなかった引落しを返すのかどうかを書きます。退会の手続が終わっていなければ、出席の有無にかかわらず月謝が発生する、と定める教室もあります。そう定めるなら、締日と手続の方法を入会の時に分かる場所に書いておく必要があります。

ボイストレーニングのスタジオの規約には、予約を入れなくても解約の連絡がない限り月謝は発生し、翌月の月謝に充当もしない、という定めがありました。月謝が「その月にレッスンを受けられる地位」の対価であることをはっきりさせる書き方ですが、教室の都合で休講した回までその扱いにすると、前の節で見た二つの場面の区別が崩れます。休講・振替の書き方は振替・休講と、最少催行人数・中止で、退会の届出の方法と予告期間は休会・退会・除名と会員どうしのルールで扱います。

レッスンチケットは三つの境界で設計する

オンラインの日本語レッスンの案件では、月ごとにレッスンの回数が変わる受講者がいて、依頼者から「回数が変わるたびに合意が必要か」という質問がありました。LINEでの合意でも有効で、書面は要りません。ただし、毎月の注文がそのたびに新しい申込みになり、その都度、申込み直前の表示(特定商取引法12条の6)が必要になります。この手間をなくすために、レッスンだけのプランを、回数券型の「レッスンチケット」に作り替えました。

レッスンチケットの設計と理由
決めたこと内容理由
単価と購入数1回の固定単価。2回以上8回以下で購入金額を回数で管理できるようにする
未使用分の上限未使用の合計は8回まで。超える部分は契約が成立せず返金未使用分×単価を5万円以下に抑え、特定継続的役務提供の金額の要件から外す
有効期限購入日から3か月6か月以内にして前払式支払手段の規制の対象外に。振替の期限(翌月末)を足しても6か月を超えないよう3か月にする
やめるときいつでも利用をやめられ、未使用分は単価×回数で返金期間・金額の要件から外した設計を、返金の面でも裏づける

設計を変えるときは、「5万円を超え、かつ有効期限が2か月を超える(期限なしを含む)=特定継続的役務提供」と、「有効期限が6か月を超える(期限なしを含む)=前払式支払手段の規制の対象になり得る」の二つを別々に確かめます。

前払式支払手段は、回数券のように、対価を得て発行され、代価の弁済などに使えるもので、発行の日から6か月以内に限って使えるものには資金決済法の第2章(前払式支払手段)の規定が適用されません(同法4条2号、同法施行令4条2項)。レッスンチケットが前払式支払手段に当たるかどうかは設計によりますが、有効期限を6か月以内にしておけば、当たるとみられた場合でも適用除外に入ります。特定継続的役務提供の判定は特定継続的役務提供と旅行業法の入口で扱います。

もう一つの境界は、特定商取引法の特定権利です。「語学の教授を受ける権利」は特定権利に指定されていて(特定商取引法施行令3条・別表第一第三号)、通信販売で特定権利を売る場合、申込みの撤回・解除についての特約を広告に表示していなければ、権利の移転を受けた日から8日を経過するまでは、申込みの撤回や契約の解除ができます(特定商取引法15条の3第1項)。チケットは役務提供の契約として組み立てていますが、権利の売買とみられた場合に備えて、特定商取引法に基づく表記に独立の欄「レッスンチケットの申込みの撤回・解除(特約)」を設け、規約にも同じ特約を置き、申込み直前の確認画面(LINEの確認メッセージを含む)にも表示しました(同法施行規則44条)。

家族で使う場合の扱いも決めました。レッスンチケットと一部のプランは、同一世帯の家族(親族で、住居と生計を同じくする6歳以上の人)と回数を分けて使えるとし、家族が受けた分も契約者の回数から差し引きます。家族の受講の書き方は未成年・保護者・家族受講と健康の申告で扱います。

繰越と失効:いつまで使えるか、退会したらどうなるか

月の回数が決まっているコースでは、受けなかった回を繰り越せるか、いつまで使えるか、退会したら残りはどうなるかを書きます。資料の中でも、教室ごとに扱いが分かれていました。

繰越の扱いの比較
教室繰越の範囲期限・失効
ダンス・体操のスタジオ(月4回・8回のコース)受けなかった回を繰り越せる翌年の同じ月まで。退会すると失効
ボイストレーニングのスタジオ当月分を翌月へ翌月末まで。翌々月以降は不可
英会話伴走プログラム受講者の都合で実施できなかった回を、翌受講月に1回まで最終月の分は、満了後1か月以内に1回だけ実施(その期間はサポートなし)
オンラインの日本語レッスン事業者の側が日時を出せなかった回契約期間の末日の7日前までに予約を申し出ていれば、次の契約期間の末日まで

繰越を認めると、その分だけ提供の期間が延びます。語学教室では、繰越の期限を含めて2か月を超えるかどうか、チケットの有効期限を含めて6か月を超えるかどうかが、前の節の境界に響きます。また、教室の側の休講で生じた繰越分まで退会で失効させると、事業者の側の事由で提供できなかった分を返さないことになり、最初の節で見た消費者契約法10条の問題と同じ構造になります。繰越分のうち、どの事由で生じたものを失効させるのかを分けて書いておくのが安全です。

年会費・月会費の扱いと、料金を後から変える手順

会員制のバーの会員規約では、年会費の支払月と更新月、退会の連絡の期限を定めていました。修了者向けの月額サロンの受講規約では、退会は1か月前までに通知し、支払済みの月会費は返さないとし、有料の会員制コミュニティの約款では、退会した月の会費は返さず日割りもしないとしています。

会費を返さない定めは、会費が少額で、会員としての地位の対価という性質がはっきりしていて、事業者の側の事情でサービスを止めた場合の例外が書かれていれば、維持しやすくなります。年会費のように期間が長く金額が大きいものほど、途中で事業者の側の事情でサービスを終える場合の返金を、例外として書いておく必要があります。会員の資格を取り消す場合の会費の扱いは、除名の手続とあわせて決めます。

料金を後から変える場合の手順も、返金の規定と一緒に決めておきます。オンラインの日本語レッスンの案件では、依頼者から「将来の消費税の扱いを、今から規約に入れておけるか」という質問がありました。入れておけます。修正版では、課税事業者となったことに伴う料金の改定を、規約の変更の理由として例示しました。免税事業者は価格の総額表示の義務(消費税法63条)の対象外なので、料金の表示から「税込」の語を外し、「表示価格以外に消費税等の追加の負担はありません」と書いています。改定するときは、民法548条の4が定める定型約款の変更の要件と手続を踏んだうえで、30日前までに通知し、次の更新日から適用し、同意しない人は解約できるようにします。

入会金だけで月額は無料の会員制サロンを有料に切り替える場合も、同じ考え方です。事前に通知し、異議があれば施行日の前に退会できるようにしておきます。有料の会員制コミュニティの約款のレビューでも、自動更新・自動課金、決済できなかったときの扱い、料金の改定を、プランの説明とは別に条文として置くよう勧めました。

ヒヤリングで確かめること 返金と料金の設計

  1. 月謝・月額料金は、何の対価ですか(その月にレッスンを受けられる地位、枠の確保、教材の閲覧など)。返さない理由を条文に書くための出発点です。
  2. 教室の都合で休講したとき、振替で対応できなかった回はどうしますか。事業者の側の事由で提供できなかった分の返金の場面として、算式と期限を決めます。
  3. 入会時に何か月分を前納してもらいますか。退会の締日と引落しの日はいつですか。締日を過ぎた届出の扱いと、止められなかった引落しの扱いを決めます。
  4. 回数券・チケットの有効期限と、未使用分の上限はどうしますか。語学なら特定継続的役務提供の境界、全般に前払式支払手段の境界に響きます。
  5. 料金を改定する可能性はありますか(消費税、プランの有料化など)。改定の理由の例示、通知の時期、適用の開始日、同意しない人の解約を規約に置きます。

起きがちなこと

よくあるご質問

入会金は返さなくてもよいですか?

入会の手続や会員としての地位の対価で、入会の時点で役務が提供済みと説明できるなら、返さない扱いは維持しやすくなります。何の対価かを書かずに金額だけを置くと、前払いの授業料ではないかと争われる余地が残ります。教室の都合でレッスンを始められなかった場合の扱いは、別に定めておきます。

月謝を前の月に払った生徒が、月の途中でやめたらどうなりますか?

規約の定め方によります。月謝を「その月にレッスンを受けられる地位」の対価と定めていれば、生徒の都合でやめた月の月謝は返さない扱いにしやすくなります。教室の都合で休講した回の扱いは別に書き、休講分まで返さないとはしないようにします。

月謝が遅れたときの遅延損害金の率は、どこまで規約で決められますか?

相手が消費者なら年14.6%が上限で、それより高い率の部分は消費者契約法9条1項2号により効力がありません。遅延損害金の定めを置かず、未納分の請求にとどめる設計もあります。

回数券に有効期限を付けないと、どうなりますか?

語学のレッスンなら、有効期限のない回数券は、特段の事情がない限り期間の要件を満たすものとして扱われ、金額が5万円を超えれば特定継続的役務提供に当たり得ます。前払式支払手段とみられた場合、発行の日から6か月を超えて使えるものは資金決済法の規制の対象にもなり得ます。

家族で回数券を分けて使わせてもよいですか?

規約で認めれば可能です。使える家族の範囲(同一世帯の親族など)と年齢、家族が受けた分も契約者の回数から差し引くこと、家族の受講者が規約に違反した場合の扱いを決めておきます。

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