このページの要点
- 閉校の返金は、未提供分相当額の算式、返金の期限、手数料の負担まで書く。振替・繰越で残った回数も含める。
- 事業の譲渡で会員との契約を引き継ぐには会員の承諾が要る(民法539条の2)。規約の変更の制度では足りない。譲渡の定め・事前の通知・同意しない人の解除と返金を組にする。
- 承継に伴う個人データの提供は第三者提供にあたらないが、承継後の利用目的は承継前の範囲に縛られる。検討段階では名簿を渡さない。
- 運営者の死亡・重病の条は、契約の終了、相続人の返金、手続を補助する人の三つ。一時的な休業とは分けて書く。
結論:閉じる・譲る・続けられなくなる、の三つの場面を分け、前払いの月謝とチケットの行き先を先に決める
教室をやめる、あるいは他の人に引き継ぐ決断は、生徒の側から見れば、続けるつもりで払った前払いの月謝や、振替・繰越で残っている回数が宙に浮く場面です。この場面の書類は、三つに分けて考えると整理しやすくなります。①教室を閉じる(サービスを終える)場面。②事業を他の人に譲り、生徒との契約を引き継いでもらう場面。③代表者が亡くなる、重い病気になるなど、本人が続けられなくなる場面。三つとも、決めるのは「通知の時期」「前払い分の返金の算式」「同意しない人の離脱の道」「会員の個人情報の行き先」です。
先に結論を四つ挙げます。①閉校の返金は、未提供分の算式を規約に書く。「合理的な方法により返還する」「時期は別に定める」とだけ書くと、会員は返金の見通しを持てません。②事業の譲渡で会員との契約を引き継ぐには、会員の承諾が要る。規約の変更の制度では、契約の相手方を替えることまでは一般に読めません。譲渡の定め、事前の通知、同意しない人の解除と返金を組にします。③会員の個人情報の移し方は、承継の前後で分けて考える。承継に伴う提供は第三者提供にあたらない一方、承継後の利用目的は承継前の範囲に縛られます。④代表者が続けられなくなったときの定めは、契約の終了、相続人の返金、手続を補助する人の三つを書く。
月謝・チケット制の教室の閉校と譲渡に絞って扱います。エステなどの前受金の引継ぎは業種ごとに別の論点があり、講師の退任に伴う受講生の同意書の作り方は別の解説の対象のため、ここでは月謝制の教室の違いだけを書きます。素材は、事務所が作成したオンラインの日本語レッスンの規約の「サービスの終了」「事業の譲渡」「代表者の死亡」の条、ダンス・体操のスタジオの会員規約の閉鎖・譲渡の条、個人で運営するクリエイターの工房の規約の死亡・重病の条です。返金の考え方の基本は月謝・会費・入会金・チケットの返金設計、休講や中止の扱いは振替・休講と、最少催行人数・中止にあります。
教室を閉じる:通知の時期と、前払い分の返金の算式
閉校の条は、まず通知の時期を決めます。日本語レッスンの規約では、サービスの全部または一部を終えられるとしたうえで、全部を終えたときは契約が終了の日に終わり、終了の日の30日前までに、サイトへの掲載と連絡アプリ、電子メールで知らせるとしました。災害などやむを得ない事由があるときだけ、その通知の時期の例外を認めています。一部だけを終える場合(クラスの廃止、曜日の廃止、コースの廃止など)は、終了に同意しない利用者が、終了の前日までに申し出て契約を解除できるようにし、解除の日は終了の日です。
通知の方法を二つ以上にする意味は、到達の確実さにあります。連絡アプリだけで知らせると、アプリをブロックしている会員や、見ていない会員に届きません。メールとの併用や、全員に向けた通知であればサイトへの掲載と組み合わせるなど、方法を書いておきます。
次に、返金の算式です。ダンス・体操のスタジオの会員規約には、サービス終了の条に次の書き方がありました。事務所の作成例と比べると、違いが分かります。
組み替えの例 サービスの終了と返金の条
返金の範囲と時期
理由返金の方法・時期が教室の都合で後から決められる形では、会員は返金の見通しを持てない。算式・期限・手数料の負担まで書くと、問い合わせに同じ答えを返せる。
未提供分の算式
理由月謝が何の対価かを規約に書いてあれば、算式もそれに沿って書ける。振替や繰越で残っている回数を含めないと、教室の都合で提供できない回が消える。
責任
理由「故意又は重大な過失がない限り責任を負わない」という書き方は、軽い過失の場合の損害賠償責任を全部免除するものと評価され、消費者契約法8条1項1号により無効とされるおそれがある。終了の条に責任の免除を重ねると、条ごとの整合が崩れる。
返金の根拠は、民法の定めにも見つけられます。教室を閉じて役務を提供できなくなったときは、債務の全部の履行が不能になった場合として、会員は催告なしで契約を解除でき(民法542条1項1号)、解除すれば互いに原状に復する義務を負います(同法545条1項)。教室に責めに帰すべき事由がない場合でも、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行できなくなったときは、会員は月謝(反対給付)の支払を拒めます(同法536条1項)。教える契約が委任の性質をもつ場合は、履行の割合に応じて報酬を請求でき(同法648条3項)、履行が中途で終わった部分は、報酬の対象になりません。規約で返金の算式を決めることは、これらの原則を、教室の運用に合う形で具体にする作業です。原則より会員に不利な形(「理由を問わず返金しない」など)にすると、消費者契約法10条の問題になります。
回数券・チケットに、発行の日から6か月を超える有効期限のものがある教室では、資金決済法の前払式支払手段にあたる設計かどうかも確かめます(同法3条1項2号、4条2号、同法施行令4条2項)。あたる場合でも、同法の義務の多くは、未使用残高が基準額(1,000万円。同法14条1項、同法施行令6条)を超えて届出をした自家型発行者などに及ぶもので(同法3条6項、5条1項)、小規模な教室では届出が必要な残高に達しないことが多いと考えられます。届出をした発行者が発行の業務を廃止するときは、保有者に残高を払い戻す義務があり、払戻しをする旨と、60日を下らない債権の申出の期間などを公告し、保有者にも知らせる手続が別に定められています(同法20条1項1号・2項)。事業の譲渡などで業務を承継させる場合は、この払戻しの義務から除かれます。チケットの設計は月謝・会費・入会金・チケットの返金設計の三つの境界で確かめておきます。
条文例サービスの終了の条(日本語レッスンの規約の例を整理)
- 当教室は、本サービスの全部又は一部の提供を終了することができる。全部の提供を終了したときは、利用契約は、終了の日に終了する。
- 当教室は、前項の終了をするときは、終了の日の30日前までに、本サイトに掲載するとともに、連絡アプリ及び電子メールにより利用者に通知する。ただし、天災地変その他やむを得ない事由があるときは、この限りでない。
- 利用者は、本サービスの一部の提供の終了に同意しないときは、終了の日の前日までに、解約の申出と同じ方法で申し出ることにより、利用契約を解除することができる。この解除は、一部の提供を終了する日に効力を生ずる。
- 第1項の全部の終了及び前項の解除に伴う返金は、未提供分相当額とし、事由が生じた日から10営業日以内に、原則として決済に用いた方法により返金する。返金に要する手数料は、当教室の負担とする。
30日と10営業日は例です。通知から終了までの間に、月謝の引落しを止めるのか、終了の日までの分を日割りにするのかも、この条か別表で決めます。
閉校の段取り(終了日から逆算する例)
- 決める終了日と、全部の終了か一部の終了かを決める。この時点から新しい前納を受けない(後の節)。
- 洗い出す会員ごとの区分(月額、前納、チケット、年会費、発表会費など)、残りの回数、受領済みの額、振替・繰越の残りを一覧にする。
- 通知する(終了日の30日前まで)規約に書いた日数以上前に、複数の方法で通知する。返金の算式・時期、最終のレッスンの日程、残りの回数の使い方(終了日までに受けるか、返金か)を同じ文面に書く。
- 終了日最終のレッスン。引落しの停止の手続を、決済事業者・金融機関の締切に間に合うよう進める。
- 返金する事由が生じた日から10営業日以内などの期限で返金し、返金の記録を残す。
- 後始末会員の個人情報を、保存が必要な範囲を除いて消去し、保管するものは安全に保管する。
事業を譲る:会員との契約を引き継ぐ方法と、同意しない人の離脱
教室を他の人(個人や法人)に譲って続けてもらうときは、生徒との契約をどう扱うかを先に決めます。方法は二つあります。ひとつは、生徒との契約上の地位を譲受人に移す方法で、契約の相手方の承諾があって初めて、地位が移ります(民法539条の2)。もうひとつは、譲渡人が生徒との契約を終えて未提供分を返金または充当し、譲受人が生徒と新しく契約を結ぶ方法です。前者は生徒の前納を引き継げて手続が簡単ですが、承諾を得られない生徒の扱いが残ります。後者は確実ですが、全員との新しい契約の手間がかかります。
日本語レッスンの規約は、前者を規約の中にあらかじめ書く形でした。利用者の側は、事業者の承諾なしに契約上の地位を第三者に譲れない一方、事業者の側は、事業を第三者に譲渡する場合に、契約上の地位、権利義務、利用者と受講者の情報を、譲受人に承継させることができる。ただし、承継の日の30日前までに、連絡アプリと電子メールで利用者に知らせ、利用者は、承継に同意しないときは、承継の日の前日までに解約の申出と同じ方法で申し出れば、承継の日の前日をもって契約(チケットを含む)を解除でき、返金は未提供分相当額で行う、という定めです。通知と、同意しない人の離脱を、セットにしてあります。
条文例事業の譲渡による承継の条(日本語レッスンの規約の例を整理)
- 利用者は、当教室の書面又は電磁的方法による承諾を得ずに、利用契約上の地位又は利用契約に基づく権利若しくは義務を、第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない。
- 当教室は、本サービスに係る事業を第三者に譲渡する場合には、利用契約上の地位、利用契約に基づく権利及び義務並びに利用者及び受講者の情報を、事業の譲受人に承継させることができる。この場合、当教室は、承継の日の30日前までに、連絡アプリ及び電子メールにより利用者に通知する。
- 利用者は、承継に同意しないときは、承継の日の前日までに、解約の申出と同じ方法で申し出ることにより、承継の日の前日をもって利用契約(レッスンチケットに係るものを含む。)を解除することができる。この場合の返金は、未提供分相当額とする。
30日は例です。譲受人の名称と承継の日、承継後の規約と料金が変わるかどうかも、通知に入れます。
事業の譲渡の条には、これより簡単な形で、利用者が承継に「あらかじめ同意する」と書く例もあります。事前の包括的な同意は、承継先が誰で、承継後にどういう条件になるかを知らないまま同意させる形になります。通知と解除の道を併せて置いたほうが、地位の移転を承諾したと説明しやすく、消費者契約法10条の評価でも安定します。
規約の変更の制度(民法548条の4)で、承継を進められないかという質問があります。この制度が定めているのは「契約の内容の変更」で、条文の文言から、契約の相手方の交替までを、会員の個別の承諾なしに決められる仕組みと読むのは難しいと考えられます。承継を予定するなら、規約に承継の定め(上の条文例)を置いたうえで、承継のときに通知し、同意しない人に解除の道を残す形で、地位の移転への承諾を整えます。承諾を得られない会員との契約は、譲渡人が終了させて返金するか、期間満了までは譲渡人が続けるかを、譲渡契約で決めておきます。
会員との契約を引き継ぐ方法の選び方
規約に、事業の譲渡による承継の定めと、同意しない人の解除の定めがありますか。
はい定めに従い、承継の日の前に通知する。解除した会員には、未提供分相当額を返金する。
いいえ今回、全員から個別に承諾をもらうか、新しい契約に切り替える。次の規約の改訂で承継の条を置く。
譲受人は、現在の規約・料金・講師・教室の場所のまま続けますか。
はい通知にその旨を書く。会員の不利益は小さく、離脱は少なくなりやすい。
いいえ変わる点を一覧にして通知し、変更への同意も合わせて取る。会員ごとに離脱を選べるようにする。
前納している月謝やチケットの残りは、譲受人が引き受けますか。
はい譲渡の対価から前受金の額を差し引くか、別に精算する。引き継ぐ契約の一覧を契約書に付ける。
いいえ譲渡人が会員に返金してから、譲受人と新しく契約してもらう。
判断の結果は、会員への通知文と、譲渡人・譲受人の間の譲渡契約の両方に書きます。
譲渡人と譲受人の間の契約でも、決めることがあります。①引き継ぐ会員の一覧(区分・残りの回数・受領済みの額)、②承諾が得られなかった会員の返金の負担、③教室の屋号を引き続き使うか。事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用するときは、譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務(返金債務を含む)を弁済する責任を負うことがあります(会社法22条1項)。個人が営む教室の譲渡では、商人の営業の譲渡として商法17条1項が同様の定めを置いていますが、個人の教室が商法上の「商人」にあたるかは事業の内容によって分かれます。この責任は、譲渡の後に遅滞なく、譲受人が責任を負わない旨を登記するか、譲受人と譲渡人が第三者に通知すれば(通知を受けた第三者との関係で)免れます(会社法22条2項、商法17条2項)。④譲渡人が近くで同じ教室を再開しないことの約束。事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がなければ、同じ市町村とそれに隣接する市町村で、譲渡の日から20年間、同一の事業を行ってはならないとされています(会社法21条1項。個人の営業の譲渡では商法16条1項)。この定めは当事者の合意で別にできるため、再開しない範囲・期間・地域は契約で決めます。講師として引き続き教える場合は、その範囲も契約で決めます。
会員の個人情報:譲渡の前と後、閉校のときの後始末
会員の名簿、連絡先、家族の情報、写真や動画は、教室が預かる個人情報です。事業を譲渡する場合、個人データを譲受人に渡すことについて、個人情報保護法は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合は、提供を受ける者を「第三者」としないと定めています(同法27条5項2号)。そのため、承継のときに会員一人ひとりの同意を取り直す必要はありません。ただし、二つの点に注意します。
- 承継の前(検討の段階)は、事業の承継に伴う提供とは扱いにくい場面で、承継の契約が成立する前の提供は第三者提供にあたると考えておくのが安全です。譲受人の候補に名簿を見せるときは、個人が特定できない形(人数、年齢層、区分ごとの件数など)にとどめます。氏名・連絡先を含む名簿は、承継の契約が成立してから渡します。
- 承継の後は、譲受人は、承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うには、あらかじめ本人の同意が必要です(同法18条2項)。会員のレッスンの連絡や月謝の管理のために集めた情報を、譲受人の別の事業の宣伝に使うことは、この範囲を超えます。
会員への通知には、譲受人の名称、承継の日、個人情報の取扱い(利用目的が変わるかどうか、問い合わせ窓口、利用の停止の求め方)を入れます。写真や動画の掲載の可否の記録は、会員の意思を示すものなので、一緒に承継します。掲載を望まない会員の記録が引き継がれないと、承継後に載せてしまう事故が起きます。同意の取り方は撮影・録画・肖像・配信の同意で扱っています。
教室を閉じる場合は、最後に個人情報を整理します。個人情報保護法は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めています(同法22条)。会員の記録のうち、帳簿の保存など法令にもとづいて残す必要があるものと、残す必要のないものを分け、残すものは安全に保管します(同法23条)。録画や写真のデータも、保存期間が過ぎたものから消去します。閉校の通知の中に、個人情報をいつまで保管し、いつ消去するかを書いておくと、問い合わせに答えやすくなります。
担当講師の交代・退任と生徒:誰との契約かを先に確かめる
月謝制の教室では、生徒が特定の講師につくことが多く、その講師が辞めるときや独立するときに、生徒の扱いが問題になります。最初に確かめるのは、生徒の契約の相手が、教室(運営者)なのか、講師個人なのかです。月謝を教室が受け取り、規約も教室名で出しているなら、契約の相手は教室で、講師の交代は、通常は教室が履行の方法を変えることにあたります。ダンス・体操のスタジオの会員規約には、運営上の都合その他やむを得ない理由により、担当講師・内容・日時・回数・方法を変更することがあり、変更は事前に掲示または電子的手段で通知する、という定めがありました。特定の講師を指名して契約した会員(個人レッスンなど)は、講師の交代に同意しない可能性が高いため、同意を取り、同意しない会員には解除と未提供分の返金の道を用意します。
生徒が講師個人と直接契約している教室(講師ごとに月謝を受け取る形)は、教室を譲渡しても、生徒の契約は動きません。講師が辞める場合も、教室が生徒の契約を引き継ぐには、生徒の承諾が要ります(民法539条の2)。講師が退任して、近くで教室を開き、生徒に声をかける場面を考えるなら、退任後の勧誘の制限と、生徒が自由に選べる立場の両立を、講師・出演者・スタッフとの業務委託と退任後の名称で扱っています。生徒への通知は、教室の都合で一方的に決めたように書かず、選べる道(新しい担当の講師で続ける/別の方法で受ける/解約して未提供分の返金を受ける)を並べて示します。
代表者が亡くなった、重い病気になった:続けられなくなったときの条
個人で運営する教室は、運営者本人が教える人でもあります。運営者が亡くなる、重い病気や事故で教えられなくなる、といった場面は、起きてほしくない出来事ですが、前払いを受けている以上、規約で決めておくべきことです。法律の側では、運営者が教えるという債務が履行できなくなるため(民法412条の2第1項)、生徒は月謝の支払を拒めます(同法536条1項)。運営者が亡くなった場合は、運営者が負っていた返金の債務を相続人が引き継ぎます(同法896条)。教える契約が準委任(法律行為でない事務の委託)にあたる場合は、受任者の死亡で契約が終わる定めもあります(同法653条1号、656条)。
とはいえ、相続人は教室の運営も会員のことも知らないのが普通です。規約に、契約の終了、返金、手続を補助する人の三つを書いておくと、後を引き受ける人が動けます。日本語レッスンの規約は、運営者の代表者が死亡し、または心身の故障により継続して提供できなくなったときは、利用契約はその時に終了し、返金は終了と同じ算式(未提供分相当額)で行う、としました。反対に、会員が亡くなったときの条もあり、契約はその時に終了して、相続人の申出により、未提供分相当額と、死亡の日の後に決済された料金を全額返金します。相続人が複数のときは、全員の同意を証する書面を出した相続人に返金できる、と手続も決めています。
個人で運営するイラスト制作の工房の規約には、運営者の死亡・重病などで提供できなくなったときは、運営者の相続人が、前払いを受けた料金のうち提供していない部分を返金し、運営者があらかじめ指定した者が決められているときは、その者が手続を補助する、という定めがありました。教室にも応用できます。指定する人(家族、同業の知人、教室を手伝う人など)には、会員の名簿と前払い額の一覧、決済のアカウント、連絡手段の所在を、万一のときに伝わる形で預けておくことが前提になります。その人が会員の個人情報を扱うことは、プライバシーポリシーに書いておきます。法人の教室では、代表者が亡くなっても法人は続くため、同じ条の書き方になりません。誰が運営者かを、規約で特定しておきます。
「重い病気」と「しばらくの休業」は区別します。続けられなくなったとはいえない場面(入院中で数か月の休みなど)では、契約を終了させるより、受講期間を延ばす、振替で対応する、会員に返金か待つかを選んでもらう、といった対応のほうが現実に合います。規約には、継続して提供できなくなったとき(終了)と、一時的に休業するとき(延長・返金の選択)を、分けて書いておきます。
終わりを決めたら、前払いを止める時期と、ヒヤリングで確かめること
閉校や譲渡を決めたあとに、実務で最も大切なのは、新しい前払いを受けないことです。終了や譲渡を決めてから、新規の入会、チケットの販売、年会費の更新、発表会費の集金を続けると、返金の対象が増え、会員に「知っていて受け取った」という印象を与えます。決めたら、次を同じ日に止めます。
- 申込みフォームと予約ページの受付。特定商取引法に基づく表記や料金ページに、募集の停止を書く。
- チケットの新規の販売、年会費や更新の案内。自動で更新される契約は、更新の停止の手続を進める。
- 口座振替・クレジットの定期の決済。金融機関や決済事業者ごとに停止の締切があるため、終了日の前に締切を確認する。
資金が足りず、全額を返せないと分かったときは、規約の定めのとおりには進まなくなります。法的な整理の手続に入った場合、返金は手続の中で扱われるため、前払いが膨らむ前に判断することが、会員を守ることにもなります。
ヒヤリングで確かめること 教室を閉じる・譲る・続けられなくなるとき
- 教室は、個人の運営ですか、法人の運営ですか。月謝やチケットは、誰の名義の口座・決済で受け取っていますか。返金の債務を負う人と、承継や相続の相手を特定します。
- 会員の区分(月額、前納、チケット、年会費、発表会費)ごとに、残りの金額と回数を一覧にできますか。返金の算式の材料になります。一覧がなければ、閉校や譲渡の通知を出せません。
- チケットの有効期限は何か月までですか。期限のないものはありますか。資金決済法の前払式支払手段にあたる設計かどうかで、払戻しの手続が変わります。
- 譲渡を考えているなら、譲受人は屋号・規約・料金・講師・場所を変えますか。会員への通知の内容と、同意しない人の数の見込みに関わります。
- 会員の個人情報(名簿、写真、録画)は、どこに、いつまで保管していますか。承継のときに渡すもの、閉校のときに消すもの、残すものを分けるために必要です。
- 運営者が万一のとき、手続を頼める人はいますか。その人は、名簿や決済のアカウントの場所を知っていますか。死亡・重病の条で、手続を補助する人を指定できます。
起きがちなこと
よくあるご質問
教室を閉めるとき、前払いした月謝は全額返さなければいけませんか?
返すのは、終了の日以後の、まだ提供していない期間の分です。すでに受けた分は返さなくてよく、振替や繰越で未受講の回数が残っている場合は、その分を含めて計算するのが基本です。規約に未提供分相当額の算式を書いておくと、会員ごとの金額を同じ基準で出せます。
閉校の通知は、いつまでにすればよいですか?
法律に日数の定めはありませんが、日本語レッスンの規約の例のように、終了の日の30日前までにサイト掲載とメールなど複数の方法で知らせる形があります。規約に書いた日数は教室自身を拘束するため、守れる日程で終了日を決めます。災害などやむを得ない事由があるときの例外は、条文に書いておきます。
教室を他の人に譲るとき、生徒との契約は自動的に引き継がれますか?
自動では引き継がれません。契約上の地位を移すには、相手方である生徒の承諾が必要です(民法539条の2)。規約に事業の譲渡による承継を定め、承継の前に通知し、同意しない生徒に解除と返金の道を残す形が、実務では使いやすい方法です。
譲渡のとき、会員の名簿を譲受人に渡すのに、会員の同意は要りますか?
事業の承継に伴って個人データが提供される場合は、提供を受ける者は第三者に該当しないため、同意を取り直す必要はありません(個人情報保護法27条5項2号)。ただし、承継の前の検討段階で名簿を見せることは別で、承継の後の利用は承継前の利用目的の範囲に限られます(同法18条2項)。
個人で運営する教室で、運営者が亡くなったら、前払いの月謝はどうなりますか?
教える債務が履行できなくなり、未提供分の返金の債務は相続人が引き継ぐのが原則です(民法896条)。規約に、契約の終了、返金の算式、手続を補助する人を書いておくと、相続人が会員の対応を進めやすくなります。
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本ページは一般的な情報提供です。法令の運用や行政の解釈は、改正や個別の事情によって変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた教室の会員規約・受講規約・受講契約書・入会申込書、語学教室の概要書面・契約書面、ワークショップ・海外プログラム・大会の参加規約、講師・スタッフとの業務委託契約書、スタジオの利用規約・利用契約書、予約プラットフォームの規約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 観光庁